古代ローマの浴場技師・ルシウスが現代の日本にタイムスリップし、日本のお風呂文化を学んでは古代ローマの浴場を改革していく――そんな“素っ頓狂”な物語が一世を風靡した漫画『テルマエ・ロマエ』。2024年4月、前作から11年の月日を経て『続テルマエ・ロマエ』第1巻が発売されました。
作者のヤマザキマリさんは、他の作品に取りかかっている間も、温泉に行くたびに「もしもここにルシウスがいたら……」と考えていたといいます。ヤマザキさんに、『続テルマエ・ロマエ』について伺いました。
『テルマエ・ロマエ』はアイロンをかけているときに…
――『テルマエ・ロマエ』が生まれた背景には、イタリアだけでなく、シリアやポルトガルでの滞在経験もヒントになっていると伺いました。
ええ、そうです。根底には、17歳でイタリアに留学して以来、ずっと海外生活が続き、浴槽に浸かれなかったという経験がありますが、様々な要因が絡み合って生まれた作品です。
シリアに滞在していた時期があるのですが、かつてローマ帝国の属州だったシリアには古代ローマ時代の遺跡がたくさん残っているんですね。しかしそういった遺跡が現地の人にはそれほど貴重なものだと認知されていない場合もあって、2~3世紀頃に建てられた神殿に人が住み着いて洗濯物を干したり、羊を飼っていたりしました。
持っていたチェキで子どもたちの写真を撮ると、画像がぼんやり浮かび上がるから、びっくりして逃げちゃって。そんな様子を見ていたら、まるでタイムスリップをしているような感覚になりました。
その後、ポルトガルで暮らし始めたのですが古い家だったので浴槽は無く、とにかくお風呂に入りたい、お湯に体を包まれたい、という思いが日々膨らみ上がりました。本当に辛かったですね。私が暮らしていたリスボンは“昭和”の日本を思わせる街だったこともあって、かつて祖父母と一緒に行っていた銭湯のことばかり思い出していました。
そんなある日、子どもの服にアイロンをかけているときに、銭湯の湯舟からバシャーン! と古代ローマ人が登場するイメージが思い浮かんだんです。実際に描いてみたら、ばかばかしい絵ができたものだから、日本の漫画家の友人に送ったら「マリ、頭は大丈夫?」って言われました(笑)。
そもそも漫画自体が、油絵だけでは食べていけないからという理由で始めたもので、同人誌のネタになればとなんとなく描き始めた作品だったんです。
2024.05.09(木)
文=河西みのり
撮影=深野未季