古代ローマに詳しい驚きの理由
――泥臭さのある“単独ヒーロー”、素敵です。ところで、ヤマザキさんはどうしてそんなに古代ローマに詳しいのでしょう?
私が留学していたフィレンツェの国立アカデミア美術学院では油彩とルネッサンス期の美術史を学びました。ルネサンスとは古代ローマ・ギリシャの精神を復興させる文化改革でしたから、必然的に古代ローマの勉強もしなければなりません。
でも、それよりも夫が古代ローマを始め歴史に詳しい人間だったというのが影響として大きかったですね。彼と結婚する前、三日三晩古代ローマの話だけして過ごしたこともありますし、比較文学の研究職だった彼の仕事の都合で結婚後に移り住んだエジプトやシリアでは、ありとあらゆる遺跡を見て周りました。シリアはおそらく3回くらいかけて国内にある遺跡を全て巡っています。
『テルマエ・ロマエ』の第1話の冒頭で都市の風景を描いていたときに「これは、いつ頃?」と聞かれて、「128年」と答えたら「この建造物はまだできていないし、これもない。こっちはまだ建設中」という指摘が(笑)
――まるでルシウスが家にいるみたいですね。
本当に、タイムスリップしてきたような人です。さらに息子も歴史好きなので、最近では3人集まると歴史の話ばっかりしていますね。
続篇ではルシウスが片言の日本語を話していますが、夫が話している言葉を再現しているんです。ルシウスと息子・マリウスとの会話も、日頃から私が息子に突っ込まれていることだったりします。
描きたいのは「予定調和」の安心感
――前作で結ばれた現代日本人女性・さつきが失踪中とのことで気になりますが、今後はどんな風に展開していくのでしょうか?
なぜさつきが登場していないかというと、以前から私は女性キャラクターを描くのが苦手、恋愛を描くのはさらに苦手で……。
前作の連載中も、読者がヒロインを求めているからどうしてもと言われて、ようやく生み出せたのがさつきというキャラクターでした。
そんな経緯もあって、続篇ではしばらくはルシウスをはじめ、オッサンだけでどこまで引っ張れるかやってみたいなと思っています。
今回は古代ローマと現代日本の温泉地を行き来する物語ですが、とんでもない事件が起こるとか、ハラハラする展開ではなく、セオリー通りに進む物語を描きたいんです。『水戸黄門』とか『ドラえもん』とか、毎回この先どうなるかわかっているんだけれど、ついつい最後まで見てしまう。で、最後には全部回収されて幸福に終わる……とにかく読む人のメンタリティに栄養と癒しが行き渡るようなエンターテインメントとしての漫画を展開できたらいいなと思っています。
最近は寝る前に『サザエさん』ばっかり読んでいるんです。疲れたときに読み返すとホッとしたり、安心したり、学ぶことも多くて、何度でも読める。『テルマエ・ロマエ』も後世、そんな作品として読まれるようになったら嬉しいです。
――最後に、ヤマザキさんの理想のバスタイムの過ごし方について教えてください。
私は“カラスの行水”なので、入ったら10分で出てしまうんです。その分、1日に3~4回は入りますね。
よく「お風呂で物語が思い浮かぶんですか?」と聞かれますが、ただ「しみるわ~」とだけ感じているだけで、何も考えていません。
20年も浴槽がない家に暮らしていたから、自宅にお風呂があって、いつでも好きな時に入れるというだけで安心感があります。仕事場として、かけ流し温泉付きの住宅を買おうかと本気で思っていたこともあるんですよ(笑)。
「テルマエ展 お風呂でつながる古代ローマと日本」
会期 開催中~2024年6月9日(日)
会場 パナソニック汐留美術館(東京・汐留)
開場時間 10:00~18:00
※5月10日(金)、6月7日(金)、6月8日(土)は20:00まで開館
※入場は閉館の30分前まで
休館日 毎週水曜日 ※ただし6月5日は開館
観覧料 一般1,200円、65歳以上1,100円、大学生・高校生700円、中学生以下は無料
※障がい者手帳をご提示の方、および付添者1名まで無料
問い合わせ
050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://panasonic.co.jp/ew/museum/
ヤマザキマリ
1967年東京都生まれ。漫画家・文筆家・画家。東京造形大学客員教授。84年にイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。2010年『テルマエ・ロマエ』(エンターブレイン)で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。15年度芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。17年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ章受章。著書に『プリニウス』(新潮社、とり・みきと共著)、『国境のない生き方』(小学館新書)、『オリンピア・キュクロス』(集英社)など多数。
https://yamazakimari.com/
続テルマエ・ロマエ 1
定価 792円(税込)
集英社
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2024.05.09(木)
文=河西みのり
撮影=深野未季