坂本龍馬を描いた『竜馬がゆく』や土佐藩主の山内容堂が主人公の『酔って候』など、司馬遼太郎は土佐にゆかりのある名作を多く残している。
高知取材の際、彼がたびたび訪れたのが、「タマテ」である。
〈この店は辛口の酒を飲んで魚料理を食うための家なのだが、どういうわけか、注文によって天丼も出る。(中略)大きなエビの天プラが三つもめしの上に載っていて、大した現実であった。酒楼でさんざん酒を飲んだあと天丼を食って、幡多郡美人郷説というまことに空の空なる世界を楽しむというのが、土佐ぶりの一つというものであろう〉(「小説新潮」1974年5月号)
ぷりっとした歯ごたえある天ぷらに、昭和4年から「つぎ足し」で守ってきた甘めの黒いつゆがしっとり馴染む。土佐らしい締めの一品である。
店主によると、「他のお客様に交じり、カウンターで一人静かに天丼を召し上がっていたこともありました」。
司馬の人柄がにじむ逸話である。
即席割烹タマテ
所在地 高知県高知市追手筋1-8-17
電話番号 088-872-1370
営業時間 17:00~22:00
定休日 日曜
※初出:文藝春秋 2023年6月号
※記載内容は変更されている場合もあります
文=「文藝春秋」編集部
