谷崎潤一郎の『細雪』では、戦前の大阪の比較的裕福な一家が、1泊2日で京都の桜を楽しむ様子が描かれています。南禅寺から祇園、円山公園の夜桜を眺めて1泊、翌日に嵯峨野、嵐山の桜を楽しんだクライマックスが、ここ平安神宮の桜です。


「西の廻廊から神苑に第一歩を踏み入れた所にある数株の紅枝垂、――海外にまでその美を謳はれてゐると云ふ名木の桜が、今年はどんな風であらうか」とその美をたたえています。

 平安神宮は、明治28年(1895年)4月に平安遷都1100年を記念して京都で開催された内国勧業博覧会のメインパビリオンとして建設されました。博覧会に先立って、平安遷都を行なった第50代桓武天皇を祀る神社として創祀されています。神社なら祭りが必要だろう、とのことで始められたのが毎年10月に行なわれる時代祭です。

 桜ですが、社殿北にある広大な神宮神苑に300本、そのうちの150本が有名な「八重紅枝垂桜」で、4月15日の例祭あたりが見ごろになります。咲き始めから2週間も見ごろが続き、色が濃いのが特徴です。

 撮影ポイントは、入り口の門をくぐってすぐの、一面に空を覆っている枝垂桜越しに朱塗りの社殿を入れる。栖鳳池そばの枝垂桜を上から下へ画面の半分に入れ、背景に尚美館や釣殿の泰平閣をぼかして配する、といったところでしょうか。

 この庭園は、7代目小川治兵衛が当時出来立ての琵琶湖疏水を引き込んで作り上げた池泉回遊式庭園ですが、かなり前から疏水からの流入をやめています。そのため、ブラックバスやブルーギルなどの外来魚によって生態系が大きく変わってしまう前の琵琶湖の生き物が唯一残っていると言われています。

平安神宮へのアクセス
交通手段 市バス5系統他「京都会館・美術館前」下車。地下鉄東西線「東山」駅下車徒歩10分。京阪電鉄「三条」「神宮丸太町」駅下車徒歩15分。

小林禎弘
フォトグラファー。京都市生まれの京都市育ち。同志社大学を卒業後3年間の公務員を経て撮影の世界へ。雑誌、書籍、広告を舞台として、京都を中心に西日本を幅広くカバー。「撮影歴30年ですが、それくらいでは京都の事はまだまだわかりまへん」。

2014.03.15(土)
文・撮影=小林禎弘