というのも、原作はシリーズの長編小説のなかでもっとも長く、登場人物が多い。性別も年齢も属性もバラバラの複数の人物それぞれにある殺人事件の容疑がかかるという、アガサ・クリスティの『オリエント急行殺人事件』を彷彿とする群像劇のようなミステリーに仕上がっている。

「たとえば同じ長編でも『容疑者xの献身』はどんな映画になるのかが事前になんとなく想像できましたが、『沈黙のパレード』はあまりにもエピソードが多い。はたして1本の映画に収まるのかと心配していたものの、完成した映画を試写で見て杞憂だったとわかりました。

 とくに冒頭15分の夏祭りのシーンには度肝を抜かれましたね。街の人びとが地元の祭りを思い思いに楽しむ光景を自然に映しているようでいて、その15分ですべての登場人物の関係性が説明されている。画の隅々までいっさい隙がないのです。これこそ西谷作品の真骨頂だとあらためて感じました」

 

「書き込みすぎて真っ黒になった台本」が支えるもの

 すばらしい原作と脚本、揺らぎのない作家性をもつ監督。それらへの信頼があると、キャストやスタッフは自らの役割だけに集中しやすい。俳優としては、そんな座組みの一員になれることがなによりも幸せなのだという。

「原作と脚本が良いのは言うまでもありませんが、西谷監督の頭の中にはいろいろな演技プランがあって、今回もらった2冊の台本のうち1冊はアイデアを書き込みすぎて真っ黒になったくらい。それほど台本がしっかりしているから、西谷さんに任せていれば大丈夫だという安心感があります。

 それはたぶん僕にかぎった話ではなく、福山さんや柴咲さんとも楽屋では演技とは関係のない雑談しかしていませんでしたが、少しも不安を感じず撮影に入っていけた。ほかの出演者の方々もみなさんこれまでのキャリアでベストの演技をしているように感じました」

 それを引き出す座組みが盤石だからこそ、ガリレオは15年以上も愛されるシリーズになったのかもしれない。

「以前、みんなと『あと10年、いや20年はやれるんじゃないの?』みたいな話を半分冗談でしたことがあります。実現するかどうかはさておき、大好きなチームの一員でいるために、これからもいろいろなかたちで打席に立ちつづけたいと思っています」

岸良ゆか=文 三宅史郎=写真
kaz(Balance)=スタイリング 安井朋美(T-FACE)=ヘアメイク
衣装協力=バレナ、パイカジ

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2024.05.01(水)
文=岸良ゆか
写真=三宅史郎
スタイリング=kaz(Balance)
ヘアメイク=安井朋美(T-FACE)
衣装協力=バレナ、パイカジ