この記事の連載

毎回100点満点のお芝居を披露するよりも…

──演じるキャラクターとしても大森監督のやり方としても、今回は、これまでにない作品だったのではないでしょうか。

 初めてで貴重な経験をさせていただきました。大森監督に言われて特に印象的だったのは、「技術はもうあるからいいんだよ」というお言葉でした。

 僕はこれまで、お芝居が自分の「技術」とは思ってはいなかったので、まずは自分のお芝居を「技術」と言われたことが心に残りました。

 言われてみれば、「演技」は演じる技術と書きますよね。これまでたくさんのエンタメ作品に出演させていただいたことで、「声色をこうしてみよう」とか「こういう動きをしてみるのはどうか」と「脳で考える」お芝居が自分の中で通常になっていましたが、今回は、「技術に頼るのではなく心を表して」と、何度も言っていただき、新しい道が拓けたように感じます。

 それに、自分がもし観客だったら、毎回頭で考えて準備した100点満点のお芝居を披露するよりも、心で感じたお芝居を出していった方が面白くて人間味を感じるなと。心で感じたお芝居は、20点しか出せないことも、150点を出せることもある。でも、それが緩急になって、リアルな世界観に繋がるのではないでしょうか。

──今作に出たことで、次の作品以降の道筋が見えてきた部分はありますか?

 そうですね。これまで出演させていただいたエンタメ作品だと、基本的にストーリーがわかりやすくてハッピーエンドのものが多かったのですが、心を描いている今作は、観る人によって感じ方や何が残るかが変わる作品だと思います。

 今作のように、ハッピーエンドではないのかもしれないけれど、見た人によって捉え方がまったく異なる作品にもすごく興味があるので、また挑戦する機会があったらいいなと思っています。

『湖の女たち』

『さよなら渓谷』以来となる吉田修一×大森立嗣のタッグが実現

 『パレード』『悪人』『横道世之介』『怒り』など数多くの小説が映画化されてきたベストセラー作家、吉田修一。多様なジャンルの話題作、問題作を世に送り出し、近年も『MOTHER マザー』『星の子』で絶賛を博した大森立嗣監督。モスクワ国際映画祭審査員特別賞ほか国内外で賞に輝いた『さよなら渓谷』以来、10年ぶりに両者のタッグが実現した『湖の女たち』は、全編にわたって観る者の理性と感性を激しく揺さぶり、比類なき衝撃的な映画体験をもたらすヒューマン・ミステリーである。

 琵琶湖近くの介護療養施設、もみじ園で100歳の老人が不審な死を遂げた。殺人事件とにらんだ西湖署の若手刑事、濱中圭介とベテランの伊佐美は、容疑者と見なした当直の職員・松本への強引な追及を繰り返す。その捜査の陰で圭介は妊娠中の妻がいながら、取り調べ室で出会った介護士、豊田佳代への歪んだ支配欲を抱き、佳代も極限の恐怖のなかで内なる倒錯的な欲望に目覚めていく。一方、東京からやってきた週刊誌記者、池田は、17年前にこの地域で発生した薬害事件を取材するうちに、もみじ園で死亡した老人と旧満州との関連性を突き止める。時を超えて浮かび上がったその新たな謎は、いかなる真実を導き出すのか。そして厳かに静まりかえった湖のほとりで、後戻りできないインモラルな関係に堕ちていく圭介と佳代の行く末は……。

原作:吉田修一『湖の女たち』(新潮文庫刊)
監督・脚本:大森立嗣
プロデューサー:吉村知己 和田大輔
音楽:世武裕子 撮影:辻智彦 美術:大原清季 照明:大久保礼司 装飾:遠藤善人
録音:吉田憲義 編集:早野亮 衣装:纐纈春樹 ヘアメイク:豊川京子
助監督:小南敏也 制作担当:大田康一 アシスタント・プロデューサー:庄司智江 宣伝プロデューサー:筒井史子
製作幹事・配給:東京テアトル、ヨアケ 制作プロダクション:ヨアケ 企画協力:新潮社
協力:滋賀ロケーションオフィス

福士蒼汰 松本まりか
福地桃子 近藤芳正 平田満 根岸季衣 菅原大吉
土屋希乃 北香那 大後寿々花 川面千晶 呉城久美 穂志もえか 奥野瑛太
吉岡睦雄 信太昌之 鈴木晋介 長尾卓磨 伊藤佳範 岡本智礼 泉拓磨 荒巻全紀
財前直見/三田佳子
浅野忠信

次の話を読む松本まりかに「ずっと福士くんが嫌いだった」と言われ… 撮影中“雑談をしなかった”福士蒼汰の覚悟

2024.04.30(火)
文=相澤洋美
写真=三宅史郎
スタイリング=オク トシヒロ
ヘアメイク=佐鳥麻子