目線は低く、志は高く

 売り場作りでの工夫をうかがうと、「お客様の目線にならないと」と言う。児童書売り場では、棚の前にしゃがんで、子どもの目の高さで見てみる。大人の目からは普通に棚に差してあるように見えても、子どもの目の高さから見ると、棚からはみ出した本が気になる。子どもの本なのだから子どもからどう見えるか、ベビーカーを押した方はどの棚なら手に取りやすいか、文字通りそれぞれの目線で見て、触って、安心して買い物ができるかを考えるという。

 文庫の棚であれば、棚の前を歩いて手に取ってみる。新刊はどのくらい積んであれば目立つか、既刊本はどこに置けば目にとまるか、POPの後ろで隠れないか、実際にお客様の目線で見て、感じて、考えてみる。当たり前のようだが、「お客様の目線」をきちんと実践するのはそうそう簡単ではない。

子どもの目線で。サイズもジャンルもいろいろで、工夫のしがいのある児童書売り場。

 小さなお店なので大量に陳列したり、派手なイベントを仕掛けたりは難しい。その代わり、陳列やコーナー作りで手に取ってもらえる工夫をする。サイン本は返品ができないし、なかなか仕入れられないので、著者の方に思い切って連絡を取ってイラスト入りサインシートを作り、本に同梱してみる。自分でもできること、この店でできることを一つずつやってみる。毎日売れた本のスリップ(本に挟まっている伝票)を店長と高橋さんとで確認し、工夫が実ったのかどうかを目で、手で感じる。

 当たり前のことを、当たり前にできる、そんな積み重ねが売り場のそこかしこに生きているように感じられた。こういう本屋さんが近くにあると、つい帰りに寄ってみたくなったり、週末にのぞいてみたくなったりするんだろうな。お近くの方がうらやましい。

手書きイラスト入りサイン用紙を同梱。「オリジナルな工夫なので、真似しないでね」。
高橋佐和子さん、『虹の岬の喫茶店』とともに。

【CREA WEB読者にオススメ】
 高橋佐和子さんのオススメ本は、森沢明夫さんの『虹の岬の喫茶店』(幻冬舎文庫)。岬に建つおいしいコーヒーの店を舞台にした、優しい気持ちになれる物語。吉永小百合さん主演で映画化も決まっており、注目の一冊。この本に惚れ込んで、文庫化されて以来オススメしていて、現時点でチェーン店で一番の売り上げ。「羽田店と競ってるけれど、大好きな本だから負けたくないんです」と高橋さん、けっこう負けず嫌いなのかも。

山下書店南行徳店
所在地  千葉県市川市南行徳1-16-1 アーバンプラザA 1階
営業時間  平日10:00~00:00、土日祝日10:00~23:00
URL http://www.booksyamashita.co.jp/CCP002.html

小寺 律 (こでら りつ)
本と本屋さんと、お茶とお菓子(時々手作り)を愛する東京在住の会社員。天気がいい週末には自転車で本屋さん巡りをするのが趣味といえば趣味。読書は雑読派、好きな作家は、小川洋子さん、宮下奈都さん。

Column

週末の旅は本屋さん

新幹線や飛行機に乗らなくても、いとも簡単に未知のワンダーランドへと飛んでいける場所がある。それは書店。そこでは、素晴らしい知的興奮に満ちた体験があなたを待つ。さすらいの書店マニア・小寺律さんが、百花繚乱の個性を放つ注目の本屋さんへとナビゲートします!

 

2014.03.01(土)
文・撮影=小寺律