しかも「つゆのレシピは当時の大将の味をそのまま再現しているんです」と加賀谷店主は話す。つまり、「春夏秋冬」は間借りのそば屋だが、10年前「浜ッ子寿司」の家族が作っていた愛あるそばの味が復活したという側面も兼ね備えているわけである。

珠玉の関西つゆと春菊天に感動

 そうしているうちに「春菊天そば関西つゆ」(480円)と「うめおにぎり」(100円)が登場した。まずつゆをひとくち。出汁が香る透き通った素晴らしいつゆである。鰹節と昆布だしを合わせ、薄口醤油と少なめの砂糖で作った返しをあわせて作られているつゆである。

 

 そばは冷凍麺だろう、細めの生麺タイプでコシもあってなかなかよい。そして、春菊天はサクッと揚がっていて油切れもよい。かじると春菊の香りが口中に広がる。「うめおにぎり」もしっとり握られていて食べやすい。料理は家で作るくらいという加賀谷店主の腕前はなかなかである。

鶴見系関東つゆって面白い

 あっという間に食べてしまったので、「なす天そば関東つゆ」(480円)と寿司屋の大将が作ってくれた「いなり寿司」(100円)を追加注文してみた。こちらも2~3分で登場した。関東つゆをまずひとくち。確かに関西より返しの主張があるのだが、それでも都下城東地区の「染まり系つゆ」に比べればはるかに透き通ったつゆである。

 寿司屋の大将は鶴見のそばつゆが「鶴見系」とか「鶴見うす色系」といわれていたことは認識していたらしい。つまり「春夏秋冬」の関東つゆは、あくまでも「鶴見系の中の関東」という位置づけで、十分関西系のつゆなのである。これは面白いチョイスだ。「なす天」もしっかり揚がっていてうまいし、大将の「いなり」は味が沁み沁みでたまらない。

「間借りだけど、鶴見の人の温かい心を感じられて…」

 加賀谷店主は帰り際こんな話をしてくれた。「大胆にも浜ッ子寿司の間借りでそば屋を始めてしまったけれど、寿司屋のそばの味が忘れられないという常連さん、そして鶴見の立ち食いそば屋を復活してくれて嬉しいという鶴見っ子が来店してくれて、なんだか鶴見の人の温かい心を感じられてすごく嬉しい。がんばって続けていきたい」という。

2024.03.28(木)
文=坂崎仁紀