この記事の連載

 新刊『茶柱の立つところ』を上梓した俳優・小林聡美さん。コロナ禍に書き始められた「地味でマニアック」なエッセイには、人生を見つめ、味わう姿が詰め込まれています。小林さんのまなざしとその先にある小さな発見こそが、これから同じ道を行こうとする30~40代を勇気づけてくれるよう。本について、俳優という仕事について、この先について伺いました。


「トホホ」なところを面白がる

──新刊『茶柱の立つところ』を読ませていただいて、この先を生きていく勇気が湧きました。

小林 え! そんなに! ありがとうございます、何よりです。

──ささやかな日常のできごとがふんだんに書かれていますが、このエッセイを書くとき、どんなことを意識して題材を選んでいましたか?

小林 もちろん旅行なんかの大きなできごとがあると書きやすいですけど、キラキラしたことばかりって、書くほうも読むほうも「ハイハイ」という気持ちになりますよね(笑)。やっぱりどこか情けない、「トホホ」なところを面白がって書く方が、書きやすいかもしれません。

──なるほど。ピアノを習い始めたことも書いてありましたね。以前の著書(『ワタシは最高にツイている』2007年幻冬舎刊)でも「ピアノをやりたい」と書かれていたので、とうとう実現されたんだ、と思いました。

小林 あら、書いてありましたか。ただ、そんなに意識してずっと「ピアノやりたい……ピアノやりたい……」と思い続けていたわけでもなくて。でも、もう残された時間を逆算すると、今始めないと遅いのではないかと思って。

──今もピアノに通われているんですか?

小林 通っています、週に一度。本当は今日、レッスンの日だったんですが、取材が入ったので、お休みしました。

──申し訳ない限りです……。おうちでも練習を?

小林 もちろんです。やっぱり音楽はね、練習しないと上達しないし、先生に見ていただくのにも失礼だし。始めて4年経ちますけど、飽きないですね。子どもの頃の4年と大人の4年って、過ぎ去る時間の速さが違うから、まだこんなもんかという感じです。4年経ってもこんなに弾けないのか、と思いますよ(笑)。

年を重ねたからこその、友人との付き合い方

──本のなかで印象的だったのが、小林さんと年上の友人たちとのエピソードです。「面白いくらい、嬉しいくらいみんな年を取った」と書かれているのが素敵でした。年上の友人から得るものって大きいですよね。

小林 ですよね。先輩がたが面白く、元気でいる姿を見ると、「こういう未来が私にもあるんだ」と思って、私自身すごく勇気づけられたり、元気をいただくことがあります。

──大人になってからの友人関係は、なかなか広がりづらいし、保つのも難しい面もあるかと思いますが、なにか心がけていることはありますか?

小林 たしかに、昔の関係性とはちょっとずつ変わってくるけれど、いっしょに年を重ねてきた、この年ならではの年季が入ってきますよね。だから、そんなに神経質には考えていません。みんなが元気で楽しくいられるようにつきあっていきたいな、というだけで。

 みんなでわっと集まって楽しんだほうが面白いと思える雰囲気だったらそうするし、ふだんは大勢で遊んでいるけれど個人でこういう話もしたいなという雰囲気を感じたら、そんな会い方もしてみたり。暑苦しくなく、思いやりを持って。そういうつきあいかたがきっと、大人っぽくていいのではないかな、なんて思ったりします。

──なるほど。暑苦しくなく、思いやりを持って。

小林 ……でも友人の中には、ついつい頑張りすぎてしまう真面目な人たちもいるので。そういう人には、時々図々しいくらいでもいいのかなと思うことはありますね。「ちょっと、なんかあるのかな」と感じたら、図々しく踏み込んでみる。年をとったら図々しさをあえて武器にしちゃう。

2024.03.30(土)
文=釣木文恵
写真=佐藤 亘
ヘアメイク=福沢京子
スタイリング=藤谷のりこ