もう一つのポイントが、アニメとの融合だ。Spotifyによると、2022年、国外で聴かれた邦楽楽曲トップ10のうち、7曲がアニメ作品に関連した楽曲だった。実はYOASOBIはそのランキングでアニメなしで2位にランクインしていた猛者なのだが、今回の「アイドル」は、アニメ『推しの子』との綿密なタイアップでさらなる高みを実現したといえる。この『推しの子』も、日本の芸能界を舞台にした極めて日本っぽい作品にもかかわらずアジアでも人気となった。

アニメ×音楽で「最強」ソニー

 この「アニメ×音楽」で絶対的な立ち位置にいるのが、ソニーだ。世界中のアニメファンが集まり、会員数1億人以上のアニメ配信サービス「クランチロール」の買収を2020年に決め、国内にも有力なアニメ制作スタジオを複数抱えている。一方の音楽部門にはYOASOBI、米津、宇多田ヒカルら海外を狙えるアーティストが所属するソニーは、この融合を最も活かせる体制をもつ。

 実際、2023年のソニー経営方針説明会では、音楽、映画、ゲームからなる「エンタメ」事業がこの10年で急速に成長し、売上高6・4兆円と過半を超えたことが冒頭で説明された。もはや、電機企業と括るべき存在ではないのだ。

 いずれにせよ、かつて日本でもそうだったように、「オタク」のものに過ぎなかったアニメ、そしてそれと融合する日本独自の音楽は、海外でもニッチの壁を超えつつある。直近では『ワンピース』の実写版大ヒットもあった。2024年はこの「ネオ・ガラパゴス」なカルチャーが世界で花開く年として記憶されることになるかもしれない。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2024年の論点100』に掲載されています。

文藝春秋オピニオン 2024年の論点100: 文春ムック

定価 1,870円(税込)
文藝春秋
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)

2024.01.18(木)
文=森川 潤