ニューヨークでも「ネオ・ガラパゴス」現象が
ニューヨークで暮らすなかでも、日々こうした現象に出くわす。寿司やラーメンが大人気なのは知られているが、最近では麹菌、出汁や、なんと納豆までが誰に推されるでもなくニッチな人気を博している。アニメや漫画の領域はもっと顕著で、半日歩くだけで、ホラー漫画の巨匠・伊藤潤二のファンと出くわしたかと思えば、サウナで『ワンパンマン』への愛を語る黒人青年と知り合う。
政府がクールジャパンでゴリ押ししたコンテンツなんかより、もっと自然に日本の色々なコアカルチャーの熱狂的なファンの輪が広がりつつある――。これは、コロナ禍があけて一番肌で感じることだ。
そして、この1年でいうと、この「ネオ・ガラパゴス」とでもいうべき現象は「音楽」の分野でも起き始めている。
YOASOBIの楽曲「アイドル」がグローバルヒット
その象徴が、音楽ユニットYOASOBIの楽曲「アイドル」だ。2023年4月に発売されると、ビルボード国内チャートで史上最長の21週連続トップを維持し、YouTubeも3億回再生を超えた。
そして、その旋風は国境を超え、6月にはグローバル(米国を除く)でも1位になり、世界最大の音楽配信サービスSpotifyの月間リスナー数も1000万人を超えた(数年前まで日本のアーティストは最高でも200万~300万人程度だった)。
このヒットは、2つの意味で興味深い。1つ目がK−POPとの違いだ。この10年、世界を席巻した韓国のK−POPは欧米で流行するダンス音楽の需要を果敢に取り込んだのに対し、現在世界でヒットの兆しを見せるJ−POPは、あくまで日本で独自進化を遂げたものだ。
特に、先述のYOASOBIや米津玄師、Adoなど、音声合成ソフトの「ボーカロイド(初音ミク)」を用いて創作する国内ネット文化発のジャンル「ボカロ」を出自として台頭してきたアーティストが国外でも人気なのが面白い。この世代の音楽は動画に合わせて一曲の中で何度も転調するのが特徴で、「こんな楽曲を作るアーティストは日本からしか生まれえない」とジャーナリストの柴那典氏は指摘する。
2024.01.18(木)
文=森川 潤