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ガンダムの衝撃
本田 『風の谷のナウシカ』も『天空の城ラピュタ』も『名探偵ホームズ』も、全部大好きでした。でも、宮﨑アニメ以外にもいろいろみましたよ。『幻魔大戦』『AKIRA』『超時空要塞マクロス』『宇宙戦艦ヤマト』……80年代の日本にはすごいアニメがたくさんありました。でも、衝撃的だったのは、何と言っても、『機動戦士ガンダム』です。ガンダムには様々なシリーズがありますが、私が好きなのは「一年戦争」を描いた、いわゆる“ファースト・ガンダム”。特に中学生の頃に観た、劇場版3部作が決定的でした。
ロボットものではあるけれど、いわゆる勧善懲悪ではなく、構造的に戦争を描いた、大人向けのアニメでした。当時はまだ子供だったので、ストーリーもよく理解できていなかったし、「ミノフスキー粒子が散布されているから、宇宙空間でのレーダー探知が不能」といった架空の設定ももちろんよくわかっていなかった。この設定のお蔭で、宇宙空間でのモビルスーツ(ロボット)同士の近接戦闘の必要性が出てくるので、同じ画面の中でガンダムと敵が戦うという絵を描くことができる。そのために富野由悠季監督がつくった設定なんですね。大人になって知ったのですが、「ミノフスキー粒子」って、富野さんの苗字から「ミノ」をとった造語なんです(笑)。
「あの白いヤツだ……」
ガンダムの劇場版3部作は大人になってからも何度も見返しました。不朽の名作ですよ。「左舷! 弾幕薄いぞ! 砲撃手、何やってんの!」なんていうブライト艦長のプロっぽい台詞が格好良くて。そういうディテールにこだわった大人の人間ドラマ、演出の巧みさが生み出す説得力に、子供ながらに魅せられたのだと思います。
例えば、劇場版第3作『めぐりあい宇宙(そら)編』の冒頭では、地球のジャブロー基地から宇宙に飛び立ったホワイトベースを、主人公アムロの宿敵である“赤い彗星”のシャアが乗る戦艦ザンジバルが追撃している場面から始まります。行く先には、シャアから連絡を受けた3隻のムサイ艦隊が待ち構えている。実はホワイトベースは地球連邦軍の主力艦隊がジャブローを無事に出発するための囮なんですね。
2024.01.27(土)
出典元=月刊「文藝春秋」2023年10月号