この記事の連載
- 『ソーシャルジャスティス』より #1
- 『ソーシャルジャスティス』より #2
ワクチンを打つと流産するというデマ
また、ワクチンを打つと流産する、不妊になるという全くのデマが知識層にまで蔓延しており、お腹の大きな私がワクチンを接種した姿を写した写真を私の勤めている病院がSNSに投稿すると、想像を遥かに超える反響がありました。毎日のように日本メディアからの問い合わせがありましたが、その頻度の高さからもインタビューの質問内容からも、どれだけ日本人がワクチンへの忌避感を抱いているかが伝わりました。
その状況を理解した上で、私はワクチン接種の意義、そして現段階でわかっている情報とわかっていない情報を考え合わせて、「接種するリスク」と「接種しないリスク」を天秤にかけた説明をしてきました。ワクチンを打つべきかどうかを決めかねている日本の方々、そして特にお腹の中の赤ちゃんのことを一番に考えて悩んでいる妊婦さんたちに、正確な科学情報を基に自分の気持ちにしっくりくる判断をしてもらいたいと強く思ったからです。
確かにmRNAワクチンという、従来とは異なるメカニズムで開発されたワクチンが全世界的に大規模接種されるといった事態は歴史的にも初めてのことで、たとえワクチンの安全性がさまざまに説明されても、不安が完全には払拭されないのもよくわかりました。mRNAの性質を考えると長期的な悪影響は非常に考えにいくいのですが、本当にないのだろうか、といった不安も多く聞かれました。でも、だからこそ、日々積み上げられていったデータを示しながら、一人ひとりの接種の判断を、とりわけ感染するとリスクの高い妊婦さんたちの判断を後押しするような情報発信ができればと思ったのです。
その結果、社会に対して大きくポジティブなインパクトを残すことができました。共に新型コロナワクチンに関する正確な科学情報を伝えたいと志す異なる専門知識を持った医師仲間にも出会い、メディアからの取材対応や行政機関への講義、非営利プロジェクト「こびナビ」によるSNSのライブ配信といった活動を連日行いながら、日本のワクチン接種率を世界有数の高さに上げることに貢献できたことを誇りに思っています。この活動は医療啓発活動に授けられる賞である、「上手な医療のかかり方アワード」の最優秀賞「厚生労働大臣賞」を受賞しました。
2024.01.12(金)
著者=内田 舞