例えば海岸の巨大な岩の間をソレは登りある決心をします。この同じ道を、彼女を追ってきたヘジュンも歩いていく。この岩は映画の最初の部分に登場する巨大な岩を彷彿させます。あの岩がなければ、2人は出会わなかったし、ヘジュンは事件を解決するためにはここを登らなければならなかった。ある意味でメタファーとして使用しているのです。
BBCなどでの英語ドラマ制作経験が役立った
──近年BBCやHBOなど欧米の英語ドラマの制作を手掛けられています。こうした海外での制作経験で得たことはありますか?
パク 両方とも非常に満足できる仕事だったと思います。様々なテーマで作品が作れたことと多くのキャストを起用して仕事ができたことが大きい。
『リトル・ドラマー・ガール』の背景はイスラエルとパレスチナで、北朝鮮と韓国との状況に似ていて身近に感じました。『シンパサイザー』はベトナム戦争後の余波が残る時代設定で、朝鮮戦争と重ね合わせて考えることができましたね。2作とも、自分の好きなテーマで、うまくできたと思います。こうした経験が、その後の作品作りに役にたったと信じています。
INTRODUCTION
『オールド・ボーイ』でカンヌ国際映画祭グランプリ、『お嬢さん』では英国アカデミー賞非英語作品賞に輝く鬼才パク・チャヌク監督の新作。岩山の頂から転落した男の事件を追う刑事ヘジュンは、被害者の妻ソレを容疑者として監視する中で、次第に彼女に特別な感情を抱き始める。刑事ヘジュンを演じるのは、『グエムル 漢江の怪物』や『天命の城』などで知られる韓国きっての演技派パク・ヘイル。物語のカギを握る女ソレをアン・リー監督『ラスト、コーション』で全世界の注目を集めたタン・ウェイが演じる。
STORY
岩山の頂から男が転落し、死亡する事件が発生した。中国出身の若い妻ソン・ソレは夫が死んだというのに驚く様子もなく、チャン・ヘジュン刑事は不審に思うが彼女にはアリバイがあった。ヘジュンはソレの監視を開始し、取調室で事件について語り合い、時に笑みを交わす中で、捜査だけでは片付けられない感情を抱くようになる。ソレもまたそんなヘジュンの想いに気づきはじめる。ふたりはもう“刑事と容疑者”ではなかった。ある日、ヘジュンはソレのアリバイを突き崩すキッカケを発見する。ソレは山頂を目指す夫から隠れるように自身も岩山を登り、頂上から夫を突き落としたのだ。
STAFF & CAST
監督・脚本 : パク・チャヌク/出演 : パク・ヘイル、タン・ウェイ、イ・ジョンヒョン、コ・ギョンピョ/2022年/韓国/138分/配給:ハピネットファントム・スタジオ
〈<BEST CINEMA 2023>言葉の壁を超えて惹かれあう2人――たくらみに満ちたサスペンス・メロドラマが第5位〉へ続く
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2024.01.10(水)
文=高野裕子