「蔦重の本を読むと江戸がいちばんってえ気になってくるぜ!」

 ほどなく蔦重は地本問屋の株を手にいれる。

 その頃には江戸が政治だけでなく、経済や人口でも上方を凌駕するようになっていた。

 蔦重は意中の戯作者を起用し、ナンセンス、滑稽、おちょくり、悪ふざけを満載した肩の凝らない作品を送り出す。そこには粋や通、はり、穿ちといった江戸ならではの美意識が根付いていた。

「蔦重のこさえるモンは粋じゃねえか」、江戸の民衆は江戸っ子気質を感じ取った。

「粋」は最大級の褒め言葉、反対に「野暮」やら「半可通」といわれれば返す言葉もない。

「蔦重の本を読むと江戸がいちばんってえ気になってくるぜ!」

 蔦重が原動力となった地本ムーブメントの到来は、「京・大坂の本のほうが上等」というパワーバランスまでひっくり返してしまったのだ。

“次の次の大河”の主役・蔦屋重三郎が写楽や歌麿を抱えて「江戸いちばんの本屋」になれた意外な理由「風流も文才もないけれど…」〉へ続く

2024.01.06(土)
文=増田晶文