――自分の信念に揺らぎがない開君に憧れますが、彼らのブランド「アクオーズ」に入れ込むあまり、家庭に亀裂が入る描写もあります。(開君のパートナーの)桜子ちゃんはどういう人なんでしょう?
はるな 儲けは二の次で、ひたすら極地探検に行ったり、朝ドラ『らんまん』のモデルになった植物学者の牧野富太郎さんみたいに研究に没頭する人っているじゃないですか。そういう人と一緒になる配偶者の方って、傍からは「苦労してる」「見る目がない」なんて言われたりしますが、実は幸せな気持ちで支えていたりするパターンもあるなと思っていて、桜子ちゃんはそういうタイプですかね。
――たしかに、桜子ちゃんみたいな人はいますね。
はるな 開君は裏方タイプなので、牧野富太郎さんとはちょっと違いますけど、でもどちらも自分の夢の達成のためには、何もかも犠牲にできる異常さがある。私は、そういう天才肌の人ほど、やりたいことがやれるかどうかが重要で、功名心は薄いんじゃないかと思うんです。また今までのマンガって、そういった開君みたいな人が成功する物語が多かったと思うんですけど、現実社会だと、開君みたいな人はジャン君みたいな人の影にいたりする。
ノーベル賞を獲った人がいたとして、全てをその人が成し遂げたかどうかなんて、私たちには分からないじゃないですか。実は見えないところに真の天才がいて、ただ何となく収まりのいい人が表に出ただけかもしれない。そういう立役者の狂気とか、面白さみたいなものも描いていきたいと思っています。
〈「いい人だから幸せになれる訳でもない」マンガ家・はるな檸檬が描く“成功する嘘つき”の顔〉へ続く
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2023.12.18(月)
文=山脇麻生