――ジャン君が口にするのは「共感」か「感謝」で、本来ならそのどちらもいいものとされている訳ですし、実際に人たらしな部分もあるんですけど、彼が言うと不穏に響く。そこも新鮮です。
はるな 表面に出ているものと本質に乖離があるキャラクターをマンガで表現するのは、本当に難しかったです。だけど、彼を訳の分からない宇宙人みたいな遠い存在として描くのは、ちょっと誠実さに欠ける気もして……。結果、読者の方には分かりにくい部分があったかもしれません。
――ジャン君は多くを語らないキャラクターではありますが、でも食への無頓着さや生活態度が、あの目の周りの脂肪を強調した感じにしっかり滲んでいる気がします。
はるな そうですね。ジャン君は表面的には人に好かれているキャラクターにしなきゃいけなかったので、愛嬌や魅力がある人物として描きつつ、読者にはそうじゃない部分も見せなきゃっていう塩梅が難しすぎて、それゆえの(目の周りの)線1本です(笑)。長期間このキャラクターを描き続けるために、どういう表情を選ぶのが正解なのか、いまだに試行錯誤しています。
――なるほどですね。でも、何かまだ隠し持っている人の顔に宿る線1本だなって伝わってきました。
はるな もっと美しいとか、可愛い造形にすることも出来たんですけど、それだとリアリティーがないなと。ちゃんと地に足が着いた人間にしたかったんです。
成功者を支える影の立役者の狂気を描く
――開君がブランドを存続させるために奔走する中、ジャン君は開君のアイディアをまるで自分のもののように話し、立ち回っていきます。読者からすればジャン君こそモンスターですが、作中では開君と仲のいいスタイリストが、開君を「あいつ、モンスターだから」というシーンがあります。はるなさんの中で、開君はどういうキャラクターなのでしょう?
はるな ジャン君が強烈すぎるので、共にブランドをやっていく人も強いキャラクターである必要があります。その一方で、読者に一番共感してほしいキャラクターなんですけど、スーパーマンすぎて私からは一番遠い人間かもしれません。だけど、彼がそこまで強い思いを持っているからこそ、この業界で短時間のうちに結果を出すことが出来た訳で、今後は開君の尋常ならざる正義感が、物語の大きい推進力になっていくと思います。
2023.12.18(月)
文=山脇麻生