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労働参加率と出生率の関係

 パトリシア・マクブルームやヘレン・ガーリー・ブラウンが、母親であり労働者である人を想像するのが難しかったという事実、つまり母親業と仕事の両立が難しいという事実は、生物学的な見解である。SFの世界が現実になるまでは、この地球を歩いているすべての人は、子宮の中で育ち、かなりの身体の回復を必要とする方法で産みだされる。

 一方で、これは歴史的な見解でもある。2世紀にわたり、女性と母性は家に属し、仕事は別の場所で行なわれると信じられてきたのだ。子どもが収入の邪魔をするとき、多くの人にとって、経済的に合理的な決断を下す以外の選択肢はない(ように感じられる)。つまり子どもの数を少なくするか、子どもをひとりも産まないのだ。

 今日の若いアメリカ人女性は、すでに歴史的な経済不況を2度も経験している。生計を立てるために複数の仕事をかけ持ちする人もいれば、専門職で働いた給料のほとんどを都会の家賃と奨学金の支払いに吸い上げられる人もいる。アメリカで子どもひとりにかかる託児所の平均費用は、連邦最低賃金でフルタイムで働く人の税引前収入とほぼ同額だ。

 あらゆる収入帯において、女性は子どもを持つことによって、男性よりも大きな賃金ペナルティを受ける。経済的に生き残るために働く必要のある女性と、キャリアの野心のために働きたい女性との違いは、過去には明らかだったかもしれないが、大卒者が経済的に苦労し、中産階級が侵食されるにつれて、その境界線が崩れつつある。プリンストン大学の社会学者キャスリン・エディンは「私が初めて女性たちの話をきいた90年代半ば以降、子どもにかかる感覚的なコストが本当に高くなった」と述べている。収入レベルに関係なく、「キャリアはライフコースの一部であるという認識が広がっている」のだ。

 出生率を高めるために女性を労働力から締め出すことを目的とした一連の法律が制定されてから1世紀半が経ったが、この政策が裏目に出たことは明らかだ。今日の西ヨーロッパでは、労働力に占める女性の割合が高い国ほど出生率が高くなっている。「60年代から70年代にかけて、伝統的な家族の価値観を支持する人々は、〔男女平等を達成するための努力によって〕最初に打撃を受けるのは出生率だろうと主張した」と、フランスのル・モンド紙の記者アン・シェミンは述べている。「50年が経ったが、彼らは間違っていたようだ。ヨーロッパの出生率は、女性が仕事に出かける国で高く、家にいる国で低くなっている」。

2023.12.12(火)
著=ペギー・オドネル・ヘフィントン
訳=鹿田昌美