配給会社の懐事情として、特に今の時代、映画だけでマネタイズするのは難しいと実感しています。日本の映画市場は現在、年間1000~2000本上映して全体の興行収入は2000億円くらい。製作費用はそれぞれですが1億円かけられない場合は「低予算作品」扱いなので、よほど爆発的なヒットにならないと儲けるのは不可能です。

『ストールンプリンセス』に惹かれたのは、「アニメーションであればIP(知的財産)ビジネスもできるのではないか」と考えた点もあります。いまや映画館でただ上映するだけでは利益を生み出せない時代だと感じるんですよね。

 とはいえ、「じゃあなにをやる?」って聞かれたときの答えはまだ見つかっていません。でも、いろんなことに挑戦していかないといけないと考えています。たとえばメタバース空間の中だけで上映する映画が生まれてもおもしろそうですよね。

——『ストールンプリンセス』の製作委員会は“年上の男性”が多かったとお聞きしますが、年齢や経験値などのギャップでやりにくい点などはありましたか?

 

“頭のカタい上司”を説得するよりも……

粉川 皆さん、私よりも何百倍もの経験、過去のいくつもの成功体験がある方々なので、最初は自分の意見を言うことがあまりできなかったんです。そうすると「じゃあセオリー通りこうしましょう」と、流れ作業的に仕事が進んでいっている雰囲気は正直ありました。

 ただ、「これじゃだめだ!」と勇気を出して「新しいことをやってみたい」とか「こういうことをやってみたいので、教えてください」と相談すると、「じゃあこれはこうしましょう」「普通はこういうことはしないけど、この形態でもいいんじゃないですか?」と提案してもらえることも多かったです。『ストールンプリンセス』の委員会の方々は「もっとこの作品を広めていきたい」という思いが共通していました。

 とはいえ、この業界にいて頭の固い人に会ったことは何度もあります。そのうえで今回わかってしまったのは、人を説得するよりも、自分でやったほうがはるかに楽ということですね。いまは自分ひとりでやっているぶん、いろんな壁にぶち当たって大変ですが、会社員だったころの上司を説得する大変さと比べたら、よほど楽です。

2023.12.17(日)