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「赦す」って余裕がないとできないこと

――今作では、彰を通してどのようなことをいちばん伝えたいと思われましたか?

 僕の中で、ここ数年のテーマでもある「赦し」でしょうか。赦すって、自分に余裕があるときはできるんですけど、忙しかったり、自分でもつらいことがあったりして心や時間に余裕がないとなかなかできないものなんです。

 作品の中でも、彰と同じ隊の板倉(嶋﨑斗亜)が大きな決断を迫られる場面があります。当時それは赦されない決断でしたが、彰は黙って赦す。あのシーンは、男同士の友情を超えた絆のようなシーンで、あの決断を赦せた彰には、人として大きな魅力を感じました。

 現場では「彰のあの時の“赦し”が大事なんだよ」と議論になるようなことはありませんでしたが、僕にとっては大事なシーンのひとつです。

――今作は戦争の悲惨さやつらさに加え、「言えない」「気持ちを表せない」という役柄上のつらさもあります。演じていて苦しくなりませんでしたか?

 それはないです。僕、殺人犯も演じたことがありますけど、基本的に芝居にそんなに引っ張られないのでしんどさはなかったです。お芝居を自分とくっつけ始めると、これから先も、演技できなくなると思うので、日頃から意識して役柄は自分とは切り離すようにしています。

 今作ではそれよりも、自分の戦争に対する思いみたいなのがこれで伝わるかどうか、そちらのほうが不安でした。僕があまりにもひょうひょうと演じているので、大げさですけど「水上って戦争についてそんなに考えていないと思われたらどうしよう」という不安はありました。

2023.12.04(月)
取材・文=相澤洋美
写真=榎本麻美