北村 京須さんが証言をしてくださったのですが、かつては舞台にお湯を沸かす火鉢があり、お湯で喉を潤したり、湯気そのもので乾燥を防ぐ効果もあったそうです。しかし寄席に漫才など動きまわる芸が登場したことで危険性が生まれて、だんだんとなくなっていったのではないか、とのことでした。昔は噺の最中に、お茶を飲んだり、火鉢で熱したお湯を茶碗に注いだりする噺家さんも多かったんですよ、とおっしゃっていました。

北原 実は北村さん、その証拠ともいえる音声もお持ちで……。

北村 こちらもぜひ、「『白浪看板』と語り」を読んでご確認いただけたら(笑)。

会場からの質問も

北原 それでは会場から北村さんにご質問があればどうぞ。

会場 「中野のお父さん」シリーズが大好きで、「『白浪看板』と語り」ももちろん拝読しています。落語に関連するお話が登場するたびに、もともと聞いていた内容とは違った側面が見えて来て、改めて落語を聞き直す……ということが多いです。「ベニヤ板」に引っ掛かりを憶えたということでしたが、どこからそういった物語の種が生まれてくるのか、秘話をお伺いしたいです。

北村 通り過ぎると忘れてしまいそうなことをいかに忘れないようにできるかな、と若い頃は色んなことを覚えていたんです。とくに本だと、付箋を貼ることで「あっ!」と思った場所をいつでも見返せるので、面白かったことをすぐに思い出すことができます。

 他には、景色を見るときに「夕焼けがきれいだな」と思えるかどうか。意識に入って来なければ、空の色も記憶に残らず、通り過ぎて忘れてしまいますから。「たしかにそこにはあるけれど気づかないもの」に気づけるように、気持ちを外側に向けていくんです。俳句をやる方に「俳句をやっていていいことは何ですか」と訊いたら、「あの鳥はなんだろう」「あの花はなんだろう」と思えるようになったところです、とおっしゃっていました。その意識の向け方によって、生きていく上で一日が膨らんでいく、人生が豊かになるのだと思います。

北原 「『白浪看板』と語り」に登場する<一線を守る誇りが、人を支える。>という一文は、『白浪看板』を語るにあたって核となっています。私にとって、北村さんが以前おっしゃっていた「生きる事、即ち表現」と並ぶ看板です。

北村 いいことを言っていますね(笑)。今回お話しした「白浪看板と語り」を収録した「中野のお父さん」シリーズ最新刊も、もう間もなくお知らせできるかなと思いますので、みなさん楽しみにお待ちください。

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