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ずっと誰かに似ていると思っていた

のん そうですね。役者として作品に入るときは、監督の思惑や作品の空気感がその役に馴染むように、自分のシーンを一生懸命演じているところがあります。でも朗読は、特定のキャラクターのセリフだけではなく、登場人物全員を少しずつトーンを変えて読まないといけないので……。それに、感情たっぷりに読みすぎても、聴き手の負担になっちゃうところもありますから、そういう塩梅が違うのかなって思います。

 あとは、映像のときは、自分の動きや表情が見せられるし、相手もいるので、五感や皮膚感覚をフルに活用してお芝居ができるんですけど、朗読はそれが一切できないので、想像力が試されるなと思いました。

 なるほど……。ちょっと唐突なことを言わせてもらってもいいでしょうか。

 今日のんさんがお話しされている様子を見ていて、ずっと誰かに似ていると思っていたんですけど、将棋の藤井聡太くんに似ているんだな、と今気づきました。私、藤井くんの対局を生で2回見せていただいたことがあるんですけど、勝手ながら、藤井くんの将棋盤に向かう姿と、のんさんの物語に向かう姿がすごく重なって見えました。

のん えぇっ……! 嬉しいです。どんなところが似ていますか?

 藤井くんの勝負を見たときに、プロの棋士というのは、事前の研究や予想で駒を動かすだけでなく、大局観といって、局面ごとにベストな選択ができることが大切なんだな、とひしひしと感じまして、今日は同じ空気をのんさんからも感じました。

 のんさんもきっと、先に『未来』を読み込んでくださって、こういうふうに読もうと練習もしてくださったのだと思うのですけど、本番で読みながら「あっ、ここは……」みたいな気づきによって、さらにいきいきとした奥深い表現が醸成されていったのではないか、と勝手に想像しました。

2023.11.17(金)
文=相澤洋美
撮影=深野未希