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日本の演劇について思うこと

――今の日本の演劇について、成河さんが思うことについてお聞かせください。

 今、演劇に携わる者たちが解決しなければならない問題は、入場料金という一つに集約されると思います。

 どんな作品であろうと他にも問題はたくさんありますが、入場料金が今のままであれば日本の演劇は滅びてしまいます。コロナ禍になってからそれが助長されて、チケット代もぐんと跳ね上がったことに大きな危機感を抱いています。払える人は観られるけれど、払えない人は観られない。演劇って、そういうものではないはずです。

 僕が昔から思っているのは、ジャケ買いできないと演劇の意味がないということ。チラシで作品に興味を持ったら「1,000円だから来てみなよ。面白くなかったら途中で帰りなよ」、これでいいんです。マナーを守らなきゃいけないとかいう必要もなく、ただ単に好きに過ごせばいい。すべては演じる側の責任ですから。でも1万円だの、2万円だのするチケットを買っている観客に対しては、そういう訳にはいきません。

 観劇するということは、今の時代ではあり得ないくらい不自由なことです。劇場でいったん席に着くと、約2~3時間もの間、飲食はダメ、会話もダメ、しかも携帯電話の電源を切らなければならない。苦痛に近い強制力を持って縛り付ける訳です。でも、人間というものは、それほどまでの極限状態にいないと感じられない自由というものもあるらしい。だからこそ僕たちはその自由を体験して欲しいんです。

 日本の演劇はファンビジネスに支えられて成立してきたもので、今なお、その形態は変わっていません。演劇は公共事業的であるべきというのがヨーロッパ全般の考え方ですが、彼らは100年以上の時間をかけて国費を使って請け負う構造を作ってきました。

 日本は公共の劇場ができてから、まだ20年ほどしか経っていません。これまで、民間が請け負ってきたんですから、チケットが高くなっていくのは仕方がないんですよ。ジャケ買いできる金額にするにはどうしたらいいのか。演劇を金銭的に支えている人たちと改めて考え直さないといけませんね。

 横に手を繋いで尽力している人たちもたくさんいるので暗い話ばかりではありません。演劇に近しい人たちがヨーロッパの演劇の構造をもう少し共有して、日本式の演劇を興行するシステムとはどういうものなのか、少しずつ探って見つけていくのだと思います。

――成河さんには余白のような時間はありますか? オフの時間をどのようにお過ごしなのか教えてください。

 余白か……面白いですね。こういう機会でもないと考えないことなので、正直に答えますよ(笑)。

 僕は余白時間、つまり稽古をしたり、本番で舞台に出ていたりする以外の物を創っていない時間には、生きている心地がしないんです。そもそも僕たち俳優という仕事のお休みというものが何なのか。僕はオンとか、オフとかいうのがなくなっていくことが一番良い状態だと思っていて、この10年くらいの月日をオンとオフがない状態で過ごしてきた気がします。だからちょっとしんどいのかもしれません。

 でも演劇には必ず稽古というものがあって、どんなに短くても4、5週間の時間をかけます。作品が変わるたびに、舞台ごと、すべてが変わって新しいメンバーで5週間くらい一緒に物創りができるので、リセットというよりか、また新しいものだという感覚で向き合うことができます。それが僕にとってすごく良いことなんです。

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成河(ソンハ)

1981年、東京都生まれ。大学時代に東京大学内の演劇サークルで演劇を始める。北区つかこうへい劇団10期生。2008年度文化庁芸術祭演劇部門新人賞受賞、2011年第18回読売演劇大賞優秀男優賞受賞、2022年第57回紀伊國屋演劇賞個人賞受賞。近年の主な出演作に劇団☆新感線『髑髏城の七人』Season花、ミュージカル『エリザベート』、『子午線の祀り』、ミュージカル『スリル・ミー』、ミュージカル『COLOR』、『建築家とアッシリア皇帝』、木ノ下歌舞伎『桜姫東文章』、『ラビット・ホール』、『ある馬の物語』、『桜の園』など多数。

舞台『ねじまき鳥クロニクル』

原作:村上春樹
演出・振付・美術:インバル・ピント
脚本・演出:アミール・クリガー
脚本・作詞:藤田貴大
音楽:大友良英
出演:成河/渡辺大知 門脇 麦
大貫勇輔/首藤康之(W キャスト) 音 くり寿 松岡広大 成田亜佑美 さとうこうじ
吹越 満 銀粉蝶 ほか

【東京公演】11月7日(火)~26日(日) 東京芸術劇場プレイハウス
ホリプロ公演事業部 03-3490-4621

【大阪公演】12月1日(金)~3日(日) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
梅田芸術劇場 06-6377-3888

【愛知公演】12月16日(土)・17日(日) 苅谷市総合文化センター大ホール
メ〜テレ事業 052-331-9966

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2023.11.06(月)
文=山下シオン
撮影=佐藤 亘