眞人の大叔父は明治時代の知識人の1人として、ナショナリズムに目覚め戦いを通じて海外進出を目指す日本の危うさ、破滅的な未来を予見して苦悩していたのだろう。争いの絶えない世界自体に対して絶望的な思いも抱いていたはずだ。その絶望がゆえに、彼は「理想の世界を創造する」という夢に魅せられ、石と契約を結んだのだろう。しかし、大叔父が犯した致命的な過ちは「悪意」という影を排除し、光だけに満ちた世界を作ろうとしたことだった。人が光だけを求めれば求めるほど影は濃くなり、最後には影がその人と世界それ自体を飲み込んでしまうからだ。
それに対する解毒剤が、眞人が異世界への旅を通じて得た「自らの内なる悪意の自覚」だった。おそらく、眞人は自らを傷つけた時には、なぜ、自分がこんなことをしてしまったのか、自分でも説明することができなかったはずだ。
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太田啓之氏による「映画『君たちはどう生きるか』の謎を解く」前後編の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載しています。
2023.10.10(火)
文=太田 啓之