メトロポリタン美術館恒例のメットガラに参加
晩ご飯を食べにいった先でマスクが突然だまり、じっとなにかを考えはじめたこともあった。1分か2分もそうしていただろうか。そして、ペンはないかと問われた。ハンドバッグからアイライナーを渡したところ、エンジンの熱シールドを改良するアイデアをナプキンに書き留めたそうだ。
「私といても心がどこかほかに行ってしまうことがあるのだと悟りました。たいがいは仕事上の問題ですね」
生産地獄まっただ中の5月、一休みという意味合いもあったのか、マスクは、グライムスとニューヨークへ飛び、メトロポリタン美術館恒例のメットガラに参加した。途方もないファッションであふれるド派手な会だ。グライムスの衣装はマスクのアイデアだった。中世の香りが漂うパンクファッションで、全体はモノトーンのアンサンブル、胸元を覆うのは固いガラスのコルセットだ。下を指しているようなネックレスはテスラのロゴに似ている。そのあたりはテスラのデザインチームも手を貸したらしい。マスクはローマンカラーの白シャツにピュアホワイトのタキシード。よく見ると、タキシードには、時代の新秩序を意味するラテン語、novus・ordo・seclorum(ノウス・オールドー・セークロールム)という文字が入っている。
青い鳥に代わり、息子の愛称でもある「X」のロゴを掲げる
2021年、マスクは世界一の富豪になった。そして、騒動をつい引き起こしてしまう自身の性格をなんとかしたいという言葉と裏腹に、翌年にはTwitter社の株を秘密裡に購入していた。
この年の4月、マスクは女優のナターシャ・バセットとハワイを旅行した。その少し前に、実はTwitter社からは取締役への就任を打診されていたが、ハワイ滞在中に、全権を掌握するために敵対的買収をしかけることを決意する。
そして、前年に“半破局”を発表していたグライムスに会うために、マスクはバンクーバーに向かった。グライムスの家ではゲーム『エルデンリング』を朝5時までプレイしたという。その直後、買収をツイートしたのだった。約半年後の2022年10月、440億ドルの費用をかけて買収は完了した。
今年4月、Twitter社は消滅。8月には青い鳥に代わり、息子の愛称でもある、アルファベット「X」のロゴが掲げられた。そこには、マスクがかつて起業したXドットコムで目指した、金融決済プラットフォームの実現の意図が込められていた。
イーロン・マスク 上
定価 2,420円(税込)
文藝春秋
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)
イーロン・マスク 下
定価 2,420円(税込)
文藝春秋
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)
週刊文春WOMAN vol.19 23年秋号 (文春ムック)
定価 660円(税込)
文藝春秋
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)
2023.09.27(水)
文=「週刊文春WOMAN」編集部