バンクーバー出身のグライムスは、マスクとデートするようになる前にアルバムを4枚出している。SFのテーマやミームから生み出される彼女の音楽は、ドリームポップやエレクトロニカの要素をちりばめた独特な肌触りのサウンドで人々を魅了する。知的冒険に乗りだす好奇心も持っていて、人工知能が暴走し、力を得る助けとならない人間を拷問にかける世界になるかもしれないとする思考実験、「ロコのバジリスク」など、かなり変わった考えにも興味を示している。言い換えれば、マスクと似た心配をしている。

 だから、この思考実験に引っかけたツイートをするのに適当なイメージはないかとマスクがグーグル検索したとき、彼女がそのあたりを2015年のミュージックビデオ、『フレッシュ・ウィズアウト・ブラッド(Flesh without Blood)』に組み込んでいると知ることになったわけだ。こうしてふたりはツイッターでやりとりをするようになり、いまどきのことで、ダイレクトメッセージやショートメッセージのやりとりへと発展していった。

デートでフリーモント工場の見学へ

 実はふたりは以前にも会ったことがあった。なんと、マスクがアンバー・ハードと一緒に乗ったエレベーターで、である。

「エレベーターで会ったの、覚えてる?」

 夜遅くに、グライムスとマスク、ふたり一緒に話を聞いていたとき、彼女がこう切り出した。

 

「あれはどうにもおかしな感じだったよね」

「いつもそうだけど、ぼくをじっと見つめていたよね」

「それは違う。あなたが私をおかしな感じで見つめていたの」

 ロコのバジリスクについてツイッターでやりとりをした関係で実際に会ったとき、マスクは、フリーモント工場の見学に彼女を誘った。これがマスクの考えるいいデートなのだ。ときは2018年3月、週5000台をめざす狂乱のさなかである。

「夜中、工場を歩いては、彼があれこれ直すのを見ました」

2023.09.27(水)
文=「週刊文春WOMAN」編集部