工作部員たちのいい仕事

 田中さんのもう一つの顔は、サクラ書店工作部員。オススメの本をもうひと押ししたり、本の世界をわかりやすく伝えたりする店頭広告(POP)は、出版社から支給されるものもあるのだが、書店員さんが手作りすることも多い。読者にとってわかりやすく、身近な書店員さんならではのオススメは、それがきっかけでヒットを生み出すパワーがある。

 田中さんは最近段ボールに凝っていて、家庭料理レシピ集のPOPとしてしょうが焼き定食を作ったり、ひとり飲みの楽しさを語った人気コミックス『ワカコ酒』のPOPに焼き鮭を作ったりしている。段ボールの厚みと質感を生かし、色を塗り、風合いを出したしょうが焼きは、とてもリアル。お店ツイッター経由で『ワカコ酒』の編集者さんや、作者の新久千映さんに伝わり、マンガ作中にもしょうが焼きが登場した(徳間書店『コミックゼノン』2013年12月号)。「ITに弱く、ツイッターとかはしないのですが、こんなことってあるんですね」と、感激の面持ちの田中さん。

段ボール製のしょうが焼き、梱包材製のごはん、みそ汁にはネギも
新久千映さんのコミックス『Yeah! おひとりさま』『ワカコ酒』には、これも段ボール製の焼き鮭

 もうひとりの工作部員は、緻密な立体物が得意で、2012年本屋大賞受賞作品『舟を編む』に登場する辞書「大渡海」の巨大レプリカや、2013年の受賞作品『海賊と呼ばれた男』に登場する船「日章丸」のプラモデルさながらの紙製模型はかなりの迫力だ。アイディア豊富な店長もPOPづくりに参加する。サクラ書店工作部、おそるべし。

2012年度本屋大賞作品、三浦しをんさんの『舟を編む』は、架空の辞書編集部を舞台にした物語。右横の「大渡海」はレプリカですがどこから見ても本物の辞書!
田中郷美さん、素敵な装丁の『ぼくの最高の日』とともに

【CREA WEB読者にオススメ】
 田中郷美さんのオススメ本は、はらだみずきさんの『ぼくの最高の日』(実業之日本社)。
先日、結婚を機に退職した同僚スタッフの手になるPOPは、連作短編集という作品世界を表現した繊細なイラスト。それが出版社さんの目に留まり、増刷を機にカバーを変えたものを発売(式の前日!)、今では、新しいイラストの方が売れているという。POPに込められた「この本を応援したい」という気持ちが、読者に、出版社、作者にまで届き、さらに全国の読者に広がっていくのは、とても素敵なことだ。

サクラ書店平塚ラスカ店
所在地 神奈川県平塚市宝町1-1
営業時間 10:00~21:00
Twitter サクラ書店平塚ラスカ店(準公式) https://twitter.com/sakuraekibiru

小寺 律 (こでら りつ)
本と本屋さんと、お茶とお菓子(時々手作り)を愛する東京在住の会社員。天気がいい週末には自転車で本屋さん巡りをするのが趣味といえば趣味。読書は雑読派、好きな作家は、小川洋子さん、宮下奈都さん。

Column

週末の旅は本屋さん

新幹線や飛行機に乗らなくても、いとも簡単に未知のワンダーランドへと飛んでいける場所がある。それは書店。そこでは、素晴らしい知的興奮に満ちた体験があなたを待つ。さすらいの書店マニア・小寺律さんが、百花繚乱の個性を放つ注目の本屋さんへとナビゲートします!

 

2013.12.28(土)