クフ王の悪口を叩いた数時間後に起きた事件

 カイロ取材の目的のひとつは、もちろん、壮大なピラミッド。翌朝、三大ピラミッドで知られるギザに向かった。ナイル川を越えギザに到着すると、既に多くの観光客で賑わっている。カイロからは地下鉄やバスで簡単に来ることができるのだ。入り口にはゲートがあって、ここで切符を買って入る。ゲートのすぐ前には、ケンタッキーフライドチキン。ピラミッドは、アクセス至便な観光地なのだ。

左:入り口のゲートでチケットを見せて敷地内へ
右:ピラミッドのメンテナンスに出勤する人たち

 クフ王、カフラー王、メンカウラー王の偉大なる三大ピラミッドとスフィンクスは、舗装された道路をトラックや観光バスが行き交う中にあった。スフィンクスのすぐ隣には、住宅街もせまる。テーマパークのように賑わうその場所から眺めたのは、昨日歩いた都心のビル群。ピラミッドは荒涼とした砂漠に建っている――そんなイメージとのギャップにとまどいを感じながら、有名なピラミッドを鑑賞した。

メンテナンス中のスフィンクスの目と鼻の先には住宅街。目の前のケンタッキーフライドチキンは、「スフィンクスを眺めながらのフライドチキン」が自慢

 ピラミッドの敷地内では、あちらこちらで、物売りに声をかけられる。なかには売るものがないのか、恩を売るおじさんも。「スカーフを頭に巻いてあげるよ~砂漠は風が強いから髪によくないね~」と、頼んでもいないのに、私が首に巻いたスカーフを勝手に頭にまこうとする。最後には笑顔で必ず、バクシーシ(喜捨)を請求する。

左:「僕が案内してあげるよ~スカーフ売ってるよ~」と、物売りのおじさん
右:警備員か警察官か。ラクダの上で業務中に居眠り

 メンカウラー王、カフラー王、そして最も大きなクフ王のピラミッドへと歩いた。近づいてみると、石一個分の高さが大人の肩に届くほどまであり、それらがぴったりと積み重なって空に伸びている。さすがは古代遺跡! だが、どこか腑に落ちないのだ。建物がすぐ隣に見えるスフィンクスは狛犬みたいだし、敷地内に舗装道路はあるし、王の墓も、中に入るにはいちいち追加料金が必要。なんだか、子どもの頃に絵ハガキを見て想像していたものと違う……。

写真で見ると、イメージどおり!

 雄大なピラミッドを前に、「絵ハガキと違う」「想像してたより小さい」などと、めちゃくちゃな悪口をさんざん言い放って、ピラミッドを後にしたその夜。取材チームの体調に異変が起きた。私自身も、原因不明の高熱に悩まされながら、翌日、次の目的地であるパリ、そしてカナダへと向かった。

 熱がようやく下がったカナダでは、豪雪で足止めを食らい、取材スケジュールが大幅変更に。仕方なく宿泊した、モントリオールにあるカントリー調の可愛らしい小さな宿。私が宿泊した部屋に飾ってあったのは、なぜかピラミッドの絵だった。

芹澤和美 (せりざわ かずみ)
アジアやオセアニア、中米を中心に、ネイティブの暮らしやカルチャー、ホテルなどを取材。ここ数年は、マカオからのレポートをラジオやテレビなどで発信中。漫画家の花津ハナヨ氏によるトラベルコミック『噂のマカオで女磨き!』(文藝春秋)では、花津氏とマカオを歩き、女性視点のマカオをコーディネイト。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。
オフィシャルサイト http://www.serizawa.cn/

Column

トラベルライターの旅のデジカメ虫干しノート

大都会から秘境まで、世界中を旅してきた女性トラベルライターたちが、デジカメのメモリーの奥に眠らせたまま未公開だった小ネタをお蔵出し。地球は驚きと笑いに満ちている!

2014.01.05(日)
text & photographs:Kazumi Serizawa