五条悟と夏油傑の関係性は「キタニっぽい」?

 もともと漫画全般が好きで、「呪術廻戦」のファンでもあったので「絶対に自分がとりたい!」と、デモ制作を何度も繰り返しました。「俺にしろおおお!!!」みたいな圧で(笑)。まだ決まってもいないのに、デモを出しては直しを繰り返して、それこそデビューが決まるか決まらないかの漫画家さんみたいな感じでした。本当に身を削って作った曲だったので、決まったときは「うれしい」というか、「はぁ……よかった……」って。これで決まらなかったら、失踪するところでした(笑)。

──「絶対に自分がとりたい!」という熱意が通じたと。

 「懐玉・玉折」編は、五条悟と夏油傑という2人の登場人物の関係性にフォーカスが当たるんですけど、この2人はすごく仲が良かったのに、どうにもできないことで決裂しちゃうんですね。それが、「キタニ(の歌詞)っぽい!」って、自分のファンの人にTwitterでめちゃめちゃ言われてたんですよ(笑)。「『懐玉・玉折』編をアニメ化するんだったら、キタニがやれ!」みたいな。

 「いや、やれるかわかんないだろそんなの!」って感じだったんですけど、たしかに自分でも「わかるよ、俺も、俺っぽいなって思うよ……!」って(笑)。 

──「青のすみか」の歌詞は、「最強の2人 もう戻れない青い春」と謳われている「懐玉・玉折」の切なさと非常にマッチしていますね。

 「懐玉・玉折」を観て惹かれる人は、青春時代になんか澱んだもの……コリッとしたものがきっとあるんだろうなと。そういうものを置いて、ここまで大人になってきてるんだと思うんです。僕も「懐玉・玉折」が好きで、共感できる部分があるので、歌詞は自分らしくスルッと書けましたね。

──アウトロの歌詞〈無限に膨張する銀河の星の粒のように指の隙間を零れた〉について、キタニさんはTwitterで「器が大きくなればなるほど抱えきれないものがでてきちゃうんですよね 手に握った砂が指のあいだからこぼれてっちゃうみたいに」とも言及されていました。どのようなことを考えながら歌詞を書きましたか?

 学生時代から一緒に音楽をがんばってた友人たちが、だんだん音楽をやめていってしまって。僕はプロになったけど、じゃあ「一緒に音楽やろうぜ!」と言っても、その人たちに仕事を振れるかといったら振れないし、一緒にバンドを組むわけでもない。結局自分はそこに責任を持てないから、やめていってしまう人を見送るしかない。

 俺はそこにすごくコンプレックスのようなものを感じていて。たぶん、青春時代にも似たようなことがあったんだとは思います。「何かから脱落していく人に対して、手を伸ばしても、もうしょうがないじゃん」って思うようなことが。

 「呪術廻戦」の中で言ったら、五条が夏油に対してそういうことを思っただろうし。

2023.08.06(日)
文=石橋果奈
撮影=末永裕樹