夏限定・絶対に食べるべき郷土料理は“味なしパン”が肝

 トスカーナには「パーネ・トスカーナ」(トスカーナのパン)と呼ばれる塩もバターも何も入らない素朴なパンがあります(なぜ入らないかはまた別の機会に)。

 他の州からは“味なしパン”とか”塩なしパン”など失礼なことを言われていて、私も初めて食べたときは素朴すぎてあまり好きではありませんでした。しかしこれが不思議と炭火で焼いた赤身の肉や生ハム、ジビエなど、トスカーナのガッツリ味の濃い料理と合わせた時には、このパン以外は考えられない素晴らしい効果を発揮するのです。

 ただし、このパーネ・トスカーナには大きな弱点が。

 乾燥しているイタリアではパンにカビが生えることは少ないのですが、2日ほど経つとカッチカッチに硬くなってしまうのです。

 そこで貧しい農民たちは何とかこのカッチカッチのパンを有効利用しようと考え、パンを水で戻して野菜と和えて食べました。それが「パンツァネッラ」のはじまりです。

 倹約家で有名なトスカーナ人、トスカーナには硬くなったパンを使う料理が他にも多くあるのも納得です。キリスト教ではパンは神聖な食べ物なので捨てたくないと考える人が多かった事も理由のひとつかも。

 ということで、今回は古くカチカチになってしまったパンを使った夏の主食! 火も使いません。パンを水で戻して野菜と和えるだけの、夏のトスカーナの常備食パンツァネッラをご紹介します。日本で「パーネ・トスカーナ」を入手するのは難しいので、バゲットで代用してくださいね。

2023.08.04(金)
文=齊藤奈津子
撮影=釜谷洋史