筆者のような長年の朝ドラファンにはうれしい「豊かな作劇」がまず根底にあり、さらに、本作から朝ドラを観はじめた視聴者、それから、小さな子どもたちにとっては「わかりやすい」。奥深いのに、とっつきやすい。基本をしっかり押さえつつも、革新的。『らんまん』は、どんな視聴者も楽しめる“ユニバーサル朝ドラ”の新たな基準を打ち出したと言ってもいいかもしれない。

 さて、果たしてこの“ユニバーサル朝ドラ”はいかにして生まれたのか。制作統括の松川博敬氏に話を聞くと、作り手の側からしても、この盛り上がりは「予想以上」だという。

 

「おかげ様で、予想の100%を超える反響と、高い評価をいただいていて、本当に幸せです」

 と語る松川氏。決して「話題やヒットを狙って」とか「気をてらって」といった構えでこの朝ドラを作ったわけではなさそうだ。それは、ドラマ本編の質実剛健さからも存分に伝わってくる。企画の立ち上げの段階では、どんな思いがあったのだろうか。

朝が待ち遠しくなるドラマを作りたい

「朝ドラは毎朝観るものですから、みなさんの生活の中でとても大事なものだと思うんです。だから、とにかく毎日『朝が来るのが楽しみだな』と思えるような朝ドラを作りたい、私自身がワクワクしながら観られるドラマを作りたい、という気持ちが強くありました。そこはもう、真剣にやろうという思いでしたね」

 いたって真摯、そして実直な「朝ドラ愛」がまず土台にあったのだという。さらに、こう続ける。

「もちろんこれは、私ひとりの力ではありません。ドラマはスタッフワークですから。いちばん初めの、企画のコアな部分を作っていく段階では、かなり念入りに揉んだと思います。スタッフも慎重に固めていきました。企画自体への『これなら勝負できる』という手応えは大きかったです。企画に呼ばれるように、徐々に『納得のいくメンバー』が集まっていきました。

 キャストに関してはやはり、私たちが切望した神木隆之介さんに主演を受けていただけたことが、大変ありがたかったです。主演が神木さんに決まったことで、スタッフも、それから共演者のみなさんも『これは心強いな』と思ったんじゃないでしょうか」

2023.08.09(水)
文=佐野華英