コロナ禍の香港を舞台に、都会の片隅で懸命に生きる人々の日常を描いた香港映画『星くずの片隅で』で、ヒロインを演じるアンジェラ・ユン。その演技力が映画賞で高く評価されるほか、シンガーソングライターのVaundy「Tokimeki」のMVにも起用されるなど、ワールドワイドな活動をしている彼女に、自身や香港映画界に起こった大きな変化について語ってもらいました。


若い監督による社会を映す作品が増えている

――オダギリジョーさんと共演されたクリストファー・ドイル監督作『宵闇真珠』でのプロモーション来日から5年。その間、役者としてアンジェラさんの中で大きな変化があったかと思います。

 私の演技が未熟で、役者としての私に多くの人が期待していなかったように思えます。それからの5年間、私はいろんなドラマや映画に出演しましたが、その一方で、ワークショップにたくさん通って演技の勉強をしました。それによって、自分の視野が広がり、さまざまな人に対する理解力も高まったような気がします。

――同じく、この5年間で香港映画界も大きな変化を遂げました。

 香港映画といえば、アクション映画やホラー映画など、あまりリアリティを感じさせないジャンルの映画のイメージが強かったと思います。この5年のあいだ、香港の社会ではいろいろなことが起こり、悲しいこともたくさんありました。それを踏まえて、若い監督や俳優によって、社会を反映したリアリティを感じさせる映画が多く製作されるという、大きな変化が起こったといえます。これが香港映画界の未来のカタチとは言い切れませんが、今後もどんどん製作すべきだと思います。

――今回公開される『星くずの片隅で』も、政治的な理由から香港では劇場未公開となっている『少年たちの時代革命』を撮ったラム・サム監督の最新作です。

 私が最初に、この作品の企画を聞いたときはコロナ禍前でした。そして、2次オーディションのときにコロナ禍となり、3次オーディションに合格して、いただいた脚本にはコロナ禍の社会が描かれていました。コロナ禍で製作される香港映画の本数が減り、役者が出演するチャンスも、いい脚本に巡り合うチャンスも減っていたので、合格できてとても嬉しかったです。企画段階から清掃会社を舞台にした物語でしたが、コロナ禍になったことで、さらに消毒作業を行う清掃会社であることの重要性が強まったように感じます。

――今回演じられたシングルマザーのキャンディは、7年前に「文青女神(文系男子の女神)」として注目されたアンジェラさんのイメージとは、かなり異なります。

 見かけは“MK妹(繁華街・モンコック地区にいそうなギャル系ファッションの女性)”ですからね(笑)。教育方針も伝統的な母親像とは違い、娘に対してあまり無理強いしないとか、友だちのような会話をし、姉妹のような距離感でいるとか、ちょっと変わって見えるかもしれません。でも、とても真面目な女性で、子どものことをいちばんに考えている良き母なので、そこを大事にして役作りしました。

2023.07.14(金)
文=くれい 響
写真=平松市聖