CREA Traveller 2023 vol.3の特集は、「トスカーナとシチリアで見つけた幸せの法則」。
この号では、イタリアで暮らす老若男女が楽しそうに見える、その秘密にフォーカス。この地の人々は、故郷の文化、伝統、そして食の豊かさを守り、繋げていくことの大切さを、すでに知り尽くしている。トスカーナとシチリアを巡り、幸せの法則を探った。
CREA Traveller 2023 vol.3
トスカーナとシチリアで見つけた
幸せの法則
定価1,650円
CREA WEBでは、CREA Traveller 2023 vol.3のコンテンツの一部を大公開します!
町をぐるりと囲む城壁が中世の面影を真空パック

『街とその確かな壁』。
サン・クイリコ・ドルチャの城壁の内側に滞在すると、そんな架空の小説の表題が頭に浮かんでくる。

この小さな集落の歴史は、城壁とともにある。15世紀には、この地を治めたシエナ共和国によって14もの塔を戴く堅牢な城壁が築かれ、町の景観は、ほぼ現在見られる形に定まった。

イギリスのカンタベリーからイタリアのローマまでを結ぶ巡礼路、フランチジェナ街道の宿場町だったサン・クイリコ・ドルチャは、重要な拠点と見なされ、要塞化が進んだというわけだ。
城壁の存在が功を奏したのか、ここには、中世の薫りがまるで真空パックされたかのように保存されている。

特に、そぞろ歩きをすると楽しいのが、中心地を貫くメインストリート、ダンテ・アリギエリ通り。
この通りこそ、かつてフランチジェナ街道だった(現在の同街道は、バイパスとして城壁外を通る)。たかだか1キロほどの距離に、3軒の由緒ある教会があり、フレンドリーなカフェやショップが軒を連ねる。

興味の赴くまま、細い道へと入り込むのも面白い。ちょっとした迷宮気分に浸ることができるだろう。
だが、迷子になって戻れなくなる心配はまずない。すぐに突き当たる“確かな壁”が、あなたを守ってくれるから。

2023.07.14(金)
文=下井草 秀
撮影=橋本 篤
CREA Traveller 2023 vol.3
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。