この順調なスタートを切ることができたのには、様々な理由があるでしょう。リッチな表現のできるゲーム機をフルに活用し、映像美を求めるユーザー層の期待に応えたこと。クリエーター自ら発売前に情報発信に力を入れたこと。体験版や強化されたアクション要素への評判が良く、「ゲーマー」が主力のPS5の所有者を中心にSNSの口コミで広まったこと……。
しかし、おそらく最も重要な理由は、作り手側が「FF」というブランドを大事にし続け、最新作をめぐっても最適なあり方を模索してきたことにあるのでしょう。
その好例がタイトルです。実はFF16の発売前、海外メディアのある記事が世界のゲームファンで話題になりました。「FF」の最新作ではゲームタイトルにつける数字、すなわち「ナンバーリング」を取ることを検討したというものです。
最終的に発売されたものはこれまで同様「FF16」と数字がついていたのですが、この記事は日本でもファンの間で話題になりました。「ナンバーリングの撤廃」についてどう考えているのか。取締役でもある吉田直樹プロデューサーに尋ねると、次のような回答がありました。
海外のインタビューを受けた際に、プロデューサーである私の発言が、一部切り取られる形になっているため、あらためて事実ベースのお話をお伝えさせてください。
FFフランチャイズの今後を考える上で、ナンバーリングの表記をどうしていくべきか、という議論が行われたことは事実です。その理由は、やはり伝統あるシリーズとは言え、シリーズに触れたことのない若い世代のゲーマーや、シリーズを知らない人にとっては、ナンバーは「続きものである」という印象を与え、「古いものから順に遊ばないといけない」という先入観となってしまいます。フランチャイズを更に成長させていくためには、新規層の獲得が非常に重要であるため、これは参入の障壁になりやすい、と考えています。
しかし一方で、歴史の長いフランチャイズでもあることから、ナンバー外のいわゆる「派生タイトル」も多数存在しており、ナンバーリングを外し、サブタイトル化したとしても、それはそれで混乱が生じてしまうだろう、というのが実情です。また、派生タイトルが多数存在するからこそ、熱心なシリーズファンの皆さんは、ナンバーに強い想い入れを持ってくださっており、「ナンバーであることこそ、正統本編の証である」といったように捉えていらっしゃいます。
このような協議をした上で、今すぐに撤廃という流れではなく、今回は「16」というナンバーリングを、明確な意思をもって行いました。今後のフランチャイズを発展させていくためにも、あらためて、近々しっかり向き合わなければいけない課題であると同時に、このようなオープンな議論ができるほど、自由で柔軟なフランチャイズである、というのがFFシリーズの強みでもあると思っています。
実際、今のゲーム業界の流行は、新規ファンの獲得と自社の看板タイトルの有効活用を重視して「ナンバーリングの撤廃」の方向性にあります。ただ、この吉田プロデューサーの言葉から分かることは、作り手たち自身が「FF」というブランドの将来を考慮し、“聖域”を設けずにあり方を模索して、その上で今回はナンバーリングの利点を生かす決断をした……ということです。
FF16は「FF7」になれるのか?
タイトルひとつとっても、こうやって最も良い形を探っていく――。こうした作り手たちの作品を大切にする姿勢がもたらした好結果が、300万本というスタートダッシュだったと言えるのかもしれません。
そのうえで重要になるのが、今後どこまで長く売れるのかということ。ゲームソフトは瞬発的に売れてその後は売れなくなる傾向がありますし、先に挙げた3つの期待はそもそも長く売れないと実現されないからです。
2023.07.14(金)
文=河村 鳴紘