地底から湧きあがるようなオーケストラのエネルギー
今やベルリン・フィルやミラノ・スカラ座など世界最高峰のオーケストラも振ることも多いグスターボ・ドゥダメルが、この録音では「懐かしいわが家」であるシモン・ボリバル・オーケストラを振っているのもいいわ。彼が世界に飛び出していくきっかけとなった「故郷」がこのオケなのです。
オーケストラとは、ブランドのようなもので、アベレージな品質は保障されているけれど、そこに「命」や「活気」が宿っていないとなんの価値もない。
ベネズエラの音楽教育システムの一環としてスタートしたシモン・ボリバル交響楽団。今やスター的なソリストを輩出する南米随一のオケに成長し、超一流のオケに劣らない冴えた音楽を作り上げている彼らの洗練されたハーモニーは、ベルリン・フィルそっくりなのです。反応が素早く、活気があり、弦楽器からも管楽器からも生き生きとしたソリストたちの主張が感じられる。地底から湧きあがってくるようなエネルギーは、メンバーひとりひとりの「音楽する喜び」に他ならないわ。
ピアニストにとっての超難曲であるこの2曲を、嬉々として演奏するユジャの才能にも改めて感動。アーティストとして一流なだけでなく、人生の戦士としても凄いものをもっているに違いない。「恐れるものは何もない」といった感じのこの気迫、自分の人生に是非取り入れてみたいです。
小田島久恵(おだしま ひさえ)
音楽ライター。クラシックを中心にオペラ、演劇、ダンス、映画に関する評論を執筆。歌手、ピアニスト、指揮者、オペラ演出家へのインタビュー多数。オペラの中のアンチ・フェミニズムを読み解いた著作『オペラティック! 女子的オペラ鑑賞のススメ』(フィルムアート社)を2012年に発表。趣味はピアノ演奏とパワーストーン蒐集。
Column
小田島久恵のときめきクラシック道場
女性の美と知性を磨く秘儀のようなたしなみ……それはクラシック鑑賞! 音楽ライターの小田島久恵さんが、独自のミーハーな視点からクラシックの魅力を解説します。話題沸騰の公演、気になる旬の演奏家、そしてあの名曲の楽しみ方……。もう、ときめきが止まらない!
2013.12.17(火)