「苦労する旅ほど愛おしさがあるんです」

 そう話すフリーアナウンサー・大橋未歩さんのライフワークとなっているのがトレッキング。忙しい仕事の合間を縫って、国内の山々やアメリカ、ニュージーランドなどのロングトレイルに挑戦している。

 10年前に脳梗塞を患い、休職していたときに山の自然に助けられ、今は登山経験が豊かな夫と“山を散歩すること”に醍醐味を感じていると言う。

 彼女の挑戦はとどまることを知らず8月から拠点をアメリカへ。新生活の思いについても語ってくれた。


脳梗塞で療養中、休む意味が欲しくて地元の山へ

――大橋さんは神戸で育ち、子供の頃から自然との距離が近かったそうですね。

 神戸は海と山に囲まれた自然豊かな場所で、実家の裏手に六甲山に続く須磨浦公園登山口があって、山で遊ぶのが何よりも好きでした。

――2013年、テレビ東京の人気アナウンサーとして大活躍中に脳梗塞を患い、仕事を休んでいたときにも須磨浦に行かれたとか。

 療養中に父と行きました。子供の頃に行った遠足以来でしたね。きっかけは、今まで大切にしてこなかったことに目を向けるべきなのではという思いに駆られたからです。

 自分は仕事が大好きなのに、なぜ8カ月も休養することになったのか。悔しさがあり、休む意味や理由が欲しかった。そうじゃないと現実を受けとめられなかったんです。

――久しぶりに訪れた山はいかがでした?

 昔は高い山というイメージでしたけど、須磨海岸が手にとるように近くに見えて、海岸線が扇状になっていて。こんなに穏やかなできれいな場所が身近にあるなんて、贅沢な環境で育ったんだとあらためて思いました。

 山を歩いたのが3月で、芽吹こうとする蕾を見ながら、自然の循環から気付かされることが多かったですね。今、花は咲いていなくても、冬が来て養分を蓄えることによって花が開く。同じように人間も巡りのなかで生きている。だから、今休んでいることは無駄じゃないと思えたことで、自分を許せるようになり心が楽になりました。

――本格的なトレッキングはいつ頃から始めたんですか?

 夫と出会ってからですね。彼は学生時代にアラスカの山に行ったりして、経験が豊富。雲取山(くもとりやま)、秩父の瑞牆山(みずがきやま)や高尾山から縦走して陣馬山に行ったり、丹沢で富士山を観たりして。2人で何とか休みを合わせて登っていました。

――計画はご夫婦のどちらが立てることが多いんですか?

 どっちのパターンもあるんですけど、私はクマが怖いんで、遭遇率が少ない西エリアを選ぶことが多いですね。四国の山を歩いたりしました。あと、高くて険しいところが苦手なんですよ。だから、南アルプスや北アルプスを熱望するという感じではないかも。ピークハントではなくて、自然のなかを散歩するように進んでいく。山で暮らすように過ごしたいねという点は、夫と共通しています。

2023.06.18(日)
文=CREA編集部
写真=榎本麻美
ヘアメイク=根本秀子