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 国際映画祭の舞台としても知られる韓国第2の都市、釜山は映画やドラマのロケ地として脚光を浴びる一方、昔ながらの港町風情や暮らす人々の篤い情も健在。

 この地に惹かれて通う、カメラマンの衛藤キヨコさんと文章担当の小池花恵さんのユニット「おかっぱとボブ」が案内する、心もお腹もあたたかくなる2泊3日の釜山旅。

【アクセス】

ソウル駅より韓国高速鉄道KTXで釜山駅(約2時間半)または金浦空港から飛行機で釜山・金海国際空港(約1時間5分)。


旅の相棒と釜山へ。一食目はストリートフードから

 空港に着くと「ただいま」と言いたくなる場所がある。おかっぱこと衛藤キヨコ、ボブこと私、小池花恵にとって釜山はそんな場所の一つだ。

 iPhoneをスクロールすると2019年の6月30日がふたりで釜山を旅した最後の日付。旅ができなくなるなんて思ってもみなかった。3年7ヵ月ぶりの1月半ば、飛行機が夕暮れの金海国際空港に到着して、また相棒との旅が始まった。ホテルのある南浦洞まで約35分、タクシーで向かう。

 あたりが暗くなるにつれ、帰路につく車が少しずつ増えていく。いつもは言葉を発しない時間の少ないふたりだが時折静かな時間が訪れる。おかっぱの座る左側の席の先には海。懐かしい市場のアジメたちを思っているのかもしれない。

 ロッテ百貨店光復店前のカーブを過ぎ、BIFF(釜山国際映画祭)広場の通りに入るとホテルに到着した。

 スーツケースを置いて早速街に出る。夕食にはやや早いがお腹はぺこぺこ。韓国にはカンシクという素晴らしい言葉があって、その音のまま「間食」という意味なのだけれど、国際市場に抜ける道の途中でぴったりな粉食店があった。粉食店ではキンパやトッポギ、ラーメンなどが食べられる。

 串に刺さった大きなトックは嚙むたびに煮干しの出汁が口の中に広がる。オモニが食べやすくカットしてくれたトッポギは辛さより甘みが先にくるまろやかな味。

 小腹を満たして南浦洞の街を歩く。

 ただ歩いているだけなのに嬉しいのは、私だけではなさそうだ。

2023.06.04(日)
Photographs=Kiyoko Eto
Text & Coordination=Hanae Koike

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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