『青春とは、』は、私のように青春から遠く離れた人にとって、青春とはなんだったのか、どんな価値観が支配的だったかを考えるきっかけになる。いま青春の渦中にいる人は、自分のことからいったん離れて、親の世代、ひょっとすると祖父母の世代の青春を客観的に見ることで、ほっと息をつけると思う。現実の青春に向き合うのは楽しいことばかりではないから。一九七〇年代にはインターネットもスマホもない。それはもはや、時代小説、もしくはSF小説のような別世界かもしれないが(そんな不便なメタバースがあったら行ってみたい)、意外とやっていること(考えていること)は似ているかもしれない(し、似ていないかもしれない)。
なお、『青春とは、』を読んだ読者は、ぜひ、姫野カオルコの『終業式』も読んでみてほしい。ドストエフスキーの『貧しき人々』、宮本輝の『錦繍』も青ざめる書簡体小説の傑作である。高校時代の女子生徒同士の手紙のやりとりから始まり、彼女たちが中年に至るまでに起こるあれやこれやの出来事を、関係者の手紙だけで描ききっている。高校時代のエピソードには『青春とは、』と通ずるものがあるので読み比べるのも一興だ。また、姫野カオルコの代表作『ツ、イ、ラ、ク』とそのスピンオフとしても読める短編集『桃』も、もしもまだ読んでいなかったら必読。それらはどれも青春というものの無残さ、悲しみとおかしみが背景にある人間喜劇だからだ。
『青春とは、』は、それら姫野カオルコが書いてきた作品のうえに、あらためて青春とは、という問いを立てた、真性の青春小説なのである。
2023.05.30(火)
文=タカザワ ケンジ(ライター)