スタイリスト・大草直子の3つの愛用品

井﨑 最後に、長年愛用されているお気に入りのものを3つ、お聞かせください。

大草 スタイリストなので私から3つ挙げると、シャネルの「マトラッセ」、トレンチコート、あとジャガー・ルクルトの「レベルソ」ですね。

スー 今の呪文みたいなやつ、何? 「ソ」しかわかんない。

大草 時計です。ジャガー・ルクルトのレベルソ。

スー あ、時計ね。

大草 それぞれなぜかというと、ある意味の発明品だから。シャネルのバッグ(マトラッセ)は、ココ・シャネルがチェーンバッグを開発して、女の人の両手をフリーにしたんですよ。だから活動範囲が増えて、荷物が増えて、生活の範囲が広がったっていう大発明なんですね。

 トレンチコートは英国軍の雨具から始まったもので、手榴弾を下げるリングがついていたりとか、風と雨を避けるフラップがついたりとか、もう“用の美”なんですよ。それもすごく好き。

 で、レベルソは、ポロの試合で時計が傷つかないように文字盤をくるっと裏返せるように開発したのが最初って言われているんです。そういった意味のあるものっておそらくこれから200年残っていくものだから、これからも大事にしたいなと思ってます。

スー すごい! 聞いている人、お金払ったほうがいい、今のとこだけでも。

自分の目指す方向を間違えず、得意なことを頑張り続けて

スー わし、どうしても今日、最後に言いたいことがあるんですわ。

大草 わしね(笑)。

スー いろんなことにチャレンジしていくのは素晴らしいんですよ、それは本当にいいことだと思う。だけど、例えば私がスタイリスト・大草直子に憧れて、「会いたい」「一緒に仕事をしたい」と思ったからといって、ファッションが全然わからないのにスタイリストになれば会えるんじゃないかって考えてもすごい遠回りなわけ。

 逆に、自分の得意なこととか自分のやり続けられることを頑張って頑張っていけば、こうやって大草さんに会うチャンスがあるわけですよ。だから、「目指す方向を間違えないように」と。「いろんなものに手を出してちょっとずつ形になっても、それだとどこにも通じないんだよ。ただ単に肩書きのスラッシュが増えてくだけで、どこにも届かないんだよ」ってことなの。

 いろんなこと試すのは全然いいんだけど、1個をやり続ければ他のことって絶対できるようになるから。それをね、若い人に言いたいなと思っていて。

大草 そうだね、うん。

井﨑 では、大草さんからも一言いただけますか?

大草 今日はご参加、ご視聴いただきましてありがとうございました。楽しかったです。

 スーさんが自分のことをこうやって書いてくださっていることもあって、この本は何度も読み返しましたが、先輩たちはたくさんいらっしゃるけれど伝記ではないし遠い昔のことではないので、同じ景色を見て、同じ匂いを嗅いで、同じ風を感じて生きてきた、その人たちの生き様みたいなものを見ることができたのは、すごくよかったなと思います。

 すごく勇気にもなるし、私自身、自分を信じるというか、「いいんだこれで」って思えたので、ぜひ、手に取っていただけたらなと思います。

スー 皆さんに何かをけしかけるつもりはないんですけど、とにかく本当に、「自信がないし不安だし」っていうのが少しでもなくなったらいいなと、私は祈っています。

 「こうしたらいい」っていうことをハウツーで教えることはできないけど、そのきっかけになることがあったら、それをなんとか届ける方向で頑張っていきたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。ということで。ありがとうございました。

 こちらのトークイベントのアーカイブ動画は4月30日(日)23:59までCREA公式You Tubeチャンネルにて配信中です! 公開終了しました。

ジェーン・スー

1973年、東京生まれ。作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」、ポッドキャスト「ジェーン・スーと堀井美香のOVER THE SUN」に出演中。『ひとまず上出来』(文藝春秋)、『きれいになりたい気がしてきた』(光文社)など著書多数。


大草直子(おおくさ・なおこ)

1972年、東京生まれ。スタイリスト。大学卒業後、現・ハースト婦人画報社へ入社。雑誌の編集に携わった後、独立しファッション誌、新聞、カタログを中心にスタイリングをこなすかたわら、イベント出演や執筆業にも精力的に取り組む。WEBメディア「AMARC」を主宰。

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2023.04.19(水)
文=張替裕子(ジラフ)
写真=平松市聖