――自分の存在が揺らぐ体験ですね。
鈴木 結婚して名字が変わった時も「今までの自分ではなくなるんだ」という悲しさがありましたが、それ以上に、「私の人権って何だろう?」と考えてしまうくらい辛くて。「ああ、これが外国人として海外に住むということか、日本に住む外国人の方もこういう苦しい思いをしているんだな」と思い知らされました。
――YouTubeでは、移住直後は「鬱っぽかった」と吐露されていましたが。
鈴木 生活様式の違いなどで戸惑いだらけの中、子どもを1人でみなくちゃいけない。駐在でパートナーに帯同するお母さんの多くがそうだと思うんですけど、女性が1人で家のことを整える場合が多いんですよね。我が家は、夫が在宅で仕事をしていますが、忙しくしているし、こっちに来てすぐは知り合いもいないから、正直、最初の頃は気持ちが落ちていました。
駐在でいらっしゃる方は3、4年で赴任先が変わるため、シンガポールは常に新しい家族がやってくる場所なんですね。なので、毎日を不安に過ごしていたかつての自分がどこかに居ると思うんです。
――鈴木さんのもとにそういった相談がきますか。
鈴木 SNSを通じて連絡をいただくことがあります。私も来た直後は友だちもいないし、自分と同じように小さな子どもを連れて移住してきたという、同じ境遇の人と出会えるチャンスがなかなかなくて不安でした。パートナーと2人で来たのか、子どもの年齢によっても皆さん本当に悩みがバラバラです。
かつての自分のような孤独を抱えた人が日々やって来る場所だからこそ、今後はそういうお母さんに寄り添うサポートができたらいいなと思っています。
夫に「仕事があるから子守をお願いね」と伝えても…シンガポールに移住した鈴木ちなみ(33)が語る、“駐在妻”の子育てのリアル へ続く
2023.04.07(金)
文=小泉なつみ