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 長門湯本温泉は、音信川(おとずれがわ)沿いに広がるコンパクトな温泉街。川沿いの遊歩道をあちこち寄り道しながら歩くのが楽しい“オソト天国”です。

 歴史ある萩焼の窯元に、郷土の美味、空き家をリノベーションしたカフェやバーなど、歩いて回れるエリアにお楽しみがギュッと詰まっています。お気に入りの場所がきっと見つかるはず!


 「cafe&pottery音(おと)」は、江戸初期から続く地域の伝統工芸、萩焼深川窯(ふかわがま)の器を気軽に楽しめるお店。温泉街で進められている「空き家リノベーションプロジェクト」の第1号として、2017年にオープンしました。築50年ほどになるという昭和の家屋は、どこか懐かしい雰囲気です。

 手仕事の温かみが宿る店内には、萩市在住の家具作家によるテーブルや、英国ヴィンテージの椅子。お店に入って手前が萩焼の展示販売スペース、奥がカフェスペースで、音信川にせり出したテラスもあり、春は川沿いの桜も眺められる人気スポットです。

 常設で扱う器は、温泉街に隣接する「萩焼深川窯」の若手作家、坂倉正紘さん、田原崇雄さん、坂倉善右衛門さんの手によるもの。ひと口に萩焼といっても、やわらかな風合いからソリッドなものまで、多種多様なスタイルがあることがわかります。

 カフェのドリンクやスウィーツも彼らの作品で提供されるため、作家物の器もぐっと身近に感じられます。オーダーごとにハンドドリップするコーヒーは、地元ロースターの豆と、萩焼深川窯がある三之瀬(そうのせ)の湧き水を使用。人気の「音信ブレンド」は、使うごとに味わいを増していく萩焼の奥深さと、音信川のせせらぎをイメージしたというオリジナルブレンド。力強くきれいな味わいです。

 作家さんもたびたび訪れるそうなので、運がよければ作陶について直接お話が聞けるかも。日常の中に伝統文化が息づく、長門湯本の暮らしが感じられるお店です。

cafe&pottery音(おと)

所在地 山口県長門市深川湯本1261-12
電話番号 0837-25-4004
営業時間 10:00~16:00
定休日 水・木曜
https://www.oto-cafe.jp/

 「一楽、二萩、三唐津」といわれ、古くから茶人に愛されてきた萩焼には、松本(現・萩市椿東)の松本窯、深川村三之瀬(現・長門市深川湯本三之瀬)の深川窯という、2つの流れがあります。長門湯本温泉にほど近い深川窯は、萩焼の開祖、李勺光の子孫や高弟たちによって開窯。現在も5軒の窯元が360余年の歴史と伝統を継承しています。
  
 長門湯本温泉から、細い山道を歩くこと10分足らず。音信川につながる三之瀬川(そうのせがわ)が流れる静かな山里に、深川五窯はあります。そのなかの一軒、「萩焼深川窯 田原陶兵衛工房」を訪ねました。

 案内してくれたのは、新進気鋭の陶芸家・田原崇雄さん。13代田原陶兵衛(現当主)の次代を担う方です。東京藝術大学と同大学院では彫刻を専攻、2010年からこの地で活動されています。

 「技術については、父をはじめ萩焼の先人から学ぶことができると思い、クリエイティビティを学ぶため彫刻科を選びました。いまは茶陶を軸とした萩焼の品格を落とさないようにしながら、暮らしに沿った器や自分なりの作品にも挑戦しています」と、田原さん。
 
 萩焼は萩藩の御用窯として生まれたやきものですが、ここ深川窯では江戸期から「自分焼」と呼ばれた一般向けの器もつくられていたといいます。

「萩の土は複雑な色の変化が起こりやすく、同じ土、同じ釉薬を使っても、びわ色~灰色~桃色と変化するなど、さまざまな表情を見せてくれます。また、使い続けることによる経年変化を楽しめるのも萩焼の特徴です」

 田原さんの手による普段使いの器は、こちらの店舗のほか「cafe&pottery 音」などでも購入可能。器との出会いは一期一会。お気に入りを見つけたら、ぜひ手に入れることをおすすめします。

萩焼深川本窯 田原陶兵衛工房

所在地 山口県長門市深川湯本1403
電話番号 0837-25-3406
営業時間 8:30~12:00、13:30~17:30
定休日 日曜(お盆、年末年始)
http://tahara-tohbe.com/

2023.02.07(火)
文=伊藤由起
撮影=榎本麻美