小説家としてやっていくためには、デビューの時から戦略を考えなければいけない。僕の考えた戦略は、物語の世界観を統一して、大きく広げていって、そこにあるひとつひとつの要素をクローズアップしてそれぞれ1作のストーリーにするということでした。それができれば、小説家を続けていけるだろうと。これまでの作品はみな、テーマも違えばキャラクターも違う、版元も違う、文章も違う。でも全部をまとめて読んだら、きっちりひとつの世界が形成できるように気を配っています」

 全貌を知っているのは中山さん本人だけという広大な物語世界が頭の中にあり、さらには驚異的な執筆ペースを持続する。そんなことが可能なのは、長年エンターテインメント作品に親しんできたからだという。
 
「小学校に入学する時分から、毎日1冊本を読んでいました。だから物語の基本とか、構成とか、自然に血肉になっていると思う。それで今回も取材なし、資料なしで、3日もあればプロットが作れるんです。
 
 読書や映画鑑賞は食事と一緒です。体の中に摂取したものは、自分の一部になります。 物語のストーリー展開にしろキャラクターの分類にしろ、ある程度の数を読み込むと、自分の中で整理・収納されてくる。そしてこのストーリーに必要なキャラクターはこれ、このテーマに必要なストーリーはこれだと、頭の中で出来てしまう。あとは書くだけです。

 美食家で、いつも美味しいものを食べている人が自分で料理を作ったら、とてつもない変な味になった、ということはまずありません。舌の記憶は脳に蓄積されるから。それは読書も一緒で、いい物語をたくさん読んだら自分の血肉になっていく。

 そこで重要なのは、自分の好きなものばかりを食べないということ。それだと栄養が偏る。読書も映画も、自分の好きなものばかりではダメです。僕は一時期、書店で手を伸ばして触れた本を買うということをやっていました。浅くてもいいから、広く網を張るんです。ひとたび取り込むと、それがどんどん自分の中で深くなっていく。ジャンルを限らずインプットすれば、それだけ自分の引き出しが増えます。いま僕が版元によって作品のカラーを変えることができるのは、その積み重ねがあるからです」
 
 さて、物語はハロウィンの夜の渋谷でクライマックスを迎え、そして〈私刑執行人〉と呼ばれる陰のヒーローが誕生する。これは“エピソード0”にあたるようだが……。

「連載をスタートする時はいつもそうなんですが、最初からシリーズにするつもりは欠片もありません。シリーズを想定して書くと全体の配分を考えますから、どうしても1巻目はスカスカになってしまう。それではお客さんは買ってくれません。まず1巻目で、思いついたことは全部入れないと。だから書く前からシリーズ化を前提にするのは難しい。でも、いざ求められたら続編を書けるような書き方がある。その秘訣は人物造形、キャラクターです。魅力的に書けば書くほど、からからに乾いた雑巾だと思っていても、絞ればまだ絞れるものなんです。

 今回の作品も、編集部から求められれば第2弾を書きますよ(笑)」

2023.02.01(水)