好感度など、とうの昔にかなぐり捨てたという感じ。前田敦子は「むきだし」だった。
かったるい前田敦子をずっと見ていられる理由
彼女がAKB48を卒業した1年後に公開された「もらとりあむタマ子」(2013年)は、淡々と父と娘の日常が描かれるが、ほとんどBGMがない。前田敦子の声が、かったるく絶妙に響く。本当にかったるく! 「日本ダメだな~」などグチグチ言い、ムッスリご飯を食べているシーンも多い。退屈極まりない映画になりそうなのに、引き寄せられるように観た。前田敦子にスピード感は必要なく、彼女の仏頂面だけでじゅうぶん画が持つ。ドラマチックな挿入歌や楽曲などなくとも、モソモソと不満げに動いているのをじっと観るだけで面白い。これはすごいことである。
11月の終わり、沢田研二主演の映画「土を喰らう十二ヵ月」を映画館で観たが、どことなく、本当に「どことなく」ではあるが、この2作は似た感動があった。沢田研二、前田敦子という特徴のある声と武骨な個性が、深い自然と食卓のなかに、ガツンと岩のようにある。そこに重なる食器の音、ご飯を食べる音など、生活音が絶妙なBGMとなり絡んでくる――。
「もらとりあむタマ子」は約10年前の映画だが、すでに、彼女の演技の「繕わなさ」には大器が漂っている。現在Amazonプライムビデオで無料配信中。彼女のホームランバーの食べ方のだらしなさがもう面白くて素敵で、繰り返し観てしまっている。
前田敦子は2年前の2020年、30歳の節目に太田プロダクションから独立し、翌年4月には俳優の勝地涼との離婚を発表した。公私ともに目まぐるしい時期を経て現在はフリーランスだが、仕事は順調だ。2022年10月公開の映画「もっと超越した所へ。」での、クズ男に翻弄され、怒りを爆発させるデザイナー・岡崎真知子役が好評。12月16日には映画「そばかす」も公開。三浦透子演じる主人公・佳純の同級生、真純を演じている。予告でも観ることができるが、こちらもエキサイティングに怒りまくっている。その姿はやはりとってもうるさく、真正面からぶつかっている感じで、とても清々しい。
2022.12.21(水)
文=田中 稲