アイドルを経験した人が、年齢を重ね、新たな花を咲かせる。その姿は、本当に眩しい。アイドルという仕事は傍から見ても過酷だ。飲み込まれそうなほどの視線が集まる環境の中、若さや魅力、個性など自らのパワーを削ぎ取り、こちらに分けてくれるような姿にヒヤッとしながらも、その輝きに見惚れてしまう。
だからこそ、その次のステージで、「これまでの経験丸ごと」を自分のものにして突き進んでいく人を見ると、ガツンと心を殴られたように感動する。そしてその輝きのプロセスを、改めて知りたくなるのだ。
私が近年、そういった清々しいほどの感動を持って見ているのが、あっちゃん、前田敦子である。
AKB48で“不動のセンター”になるまで
もう言わずもがなではあるが、彼女はAKB48の第1期メンバーで、グループを時代のモンスターにのし上げた不動のセンターだ。
2007年の紅白歌合戦に、中川翔子、リア・ディゾンとともに「アキバ枠」として初出場したときのことはよく覚えている。当時は、次の歌唱の米米CLUB・カールスモーキー石井が彼女たちに向かって
「はい、おうちの方が心配してますよ、小娘たちは帰りましょうね」
と冗談で言ったほどの認知度の軽さ(低い、ではなく軽い)。私も一時のお祭りで終わるのかな、と思っていた。
そんな彼女たちが数年後、時代を引っ掻き回すほどの一大ムーブメントを巻き起こすことになり、本当に驚いた。なかでもセンター前田の人気は凄まじかったが、彼女から見えるのは自信より「なぜ私が感」とプレッシャー。全盛期の印象は「とにかく大変そう」だった。
過呼吸になりながら、最後にはオーラを見せつける
今年10月22日に公開された「NIPPON.COM」のインタビューで、
「自分に人気があると思ったことは一度もなかった」
と語っているのを読んだが、すごく不安そうだったものなあ、と納得してしまった。トップ争いはしているのだけど、誰かと競うのではなく、自分にしか見えないパンチングボールをずっと叩いているイメージ。過呼吸になりつつも、最終的にはしっかりとステージでオーラを見せつける。けれど決して馴染まない。アイドルながらハッピーオーラより「孤独と重さ」が目につき、ゴツゴツと周りにぶつかる岩のような感じにハラハラした。
2022.12.21(水)
文=田中 稲