この記事の連載
- 枝元なほみインタビュー #1
- 枝元なほみインタビュー #2
SNSで感じた、キッチンに立つ女たちの孤独
――料理研究家として活躍されているからこそ気が付いたことですね。
枝元 そうとも言えるけど、一番のきっかけはTPP(環太平洋パートナーシップ)。TPPってギャンブルで損をしない人たちがいるのと同じ原理な気がして、おかしいなって思ったんです。
――TPPというと、輸出入にかかる関税や許可の条件などの一部を取り払うことから、農協などからも反対の声が上がっていました。
枝元 そう。TPPって結局、食べ物で利益を追求する人たちの一つの現れだと思うんだ。
一方で、そういう利益を追求する人たちと、実際にキッチンに立っている人たちとの間には距離があって、分断されている。東日本大震災で原子力発電所の事故が起きた時、農業が大きな打撃を受けたでしょ。あの時、キッチンにいる女たちは、「放射能の影響をどこまで心配すればいいんだろう」と気をもんでいたんだよね。
彼女たちの不安を最も感じたのは、ある 日レシピを考えながら「水産物に対する放射能の影響が解明されていないけど、キンメダイやアサリをレシピに使ってもいいのかな」ってTwitterに書き込んだとき。そうしたら、たくさんの女性から返事が返ってきてさ。「家庭にも、周りの友人にも食についてフラットに相談できない。どうしたらいいかわからない」って。
もし「放射能の影響が心配で、これまで通りに料理ができない」なんて言ったら、「気にしすぎだ」と非難されるんじゃないかと不安だったんだよね。その姿から、自分がどう考えているか口を閉ざして、キッチンに閉じ込められている感じがしたの。
こういう不安を解消することは、本来は政府の仕事のはずなのに、キッチンにいる女たちに押し付けられている。みんな一生懸命に考えて、苦しいくらいちゃんとやっていこうと思っているのに。
資本主義社会で目指してきた右肩上がりの社会では、そうやって消耗されている人やもの、思いがあるんじゃないかな。最近は、そういう世界から脱却して、そろそろ次のステージに上がっていいんじゃないかと考え始めています。
枝元なほみ(えだもと・なほみ)
1955年3月22日生まれ。太田省吾を中心とした劇団「転形劇場」で劇団員をしながら、東京都中野区にある無国籍レストラン「カルマ」(現在は閉店)に勤務。劇団解散後、料理研究家として仕事を開始。その後、料理研究家の阿部なをに師事する。農業支援を行う「チームむかご」、ホームレスの人たちがパン屋で余ったパンを販売する「夜のパン屋さん」などの活動も行う。2019年には、ビッグイシュー基金の共同代表に就任。「エダモン」の愛称で親しまれる。
捨てない未来 キッチンから、ゆるく、おいしく、フードロスを打ち返す
定価 1980円(税込)
朝日新聞出版
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)
2022.12.28(水)
文=ゆきどっぐ
撮影=平松市聖