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娘とシェイクスピアで毎日が過ぎていく

――毎日お稽古で忙しく、息つく暇もないかと思いますが癒やしの時間はあるんでしょうか?「お嬢さんの顔を見に早く家に帰りたい!」となってしまいませんか?

 早く会いたいとは思いますよ。ただ、最近は稽古でクタクタですね…

――そうなんですね(笑)。

 あのね、大変だよ。稽古でヘトヘトになって疲れて帰るじゃない? 最近パパと寝てくれるから、寝かしつけたらそのまま俺も寝ちゃったりしてるときもあるしね。もちろんかわいくてたまらないんだけどね。家に帰ったらまたヘトヘトになるから、顔は見たいけど体力がついていかない…もう大変です(笑)。

――では今、おひとりだけの時間みたいなものは全然ない状態ですか?

 全然ないです。娘とシェイクスピアで毎日が過ぎ去っていく。こんなにひとりの時間がないの、生きてきて初めてだもん(笑)。ある意味すごく幸せなのかもしれないけどね。

――「彩の国シェイクスピア・シリーズ」は『ジョン王』でファイナルとなります。本シリーズは、俳優・演出家の吉田さんにとってどのような場所ですか? いったんの完結ということについても、どのようなお気持ちか聞かせてください。

 特に感慨であったり、「長いことやってきたなぁ、頑張ったなぁ」という気持ちはあまりないんです。というより、感慨に浸っているような余裕のある状態では今はない、という感じです。

 僕は40代から50代後半までの期間を、すべてこのシリーズに捧げてきました。それによって、いろいろなことを蜷川さんからいただきましたし、いろいろなシェイクスピアの世界を見せてもらいました。だから「蜷川さんが生きていれば」と思いますし、「蜷川さんならどうするんだろう?」とも思います。ただ、20年一緒にやってこられたので、蜷川さんの魂みたいなものが知らないうちに自分の中に息づいているのかなと感じます。

 僕は永遠に蜷川さんのシェイクスピアを観ていたかった。けれどあるときパタッと蜷川さんが逝ってしまったことによって観られなくなってしまった。残念ではあるけれど、今、僕の中にある蜷川さんの魂と作品を作っていくことが、一緒に舞台を作っていることになるんじゃないかと、そう思うんですよね。

 これからもそれは大事にしていきたいと、思いを新たにしているところです。

2022.12.19(月)
文=赤山恭子
写真=松本輝一
ヘアメイク=吉田美幸
スタイリスト=尾関寛子