太宰 治の紡ぐ言葉に救われた青春時代
――本書は「YOUTH」をテーマにし、登場される方々の青春にもフォーカスしています。そして、小泉さん自身も書籍オリジナル企画の「一問一答」に答えられていました。その中の質問で「16歳の自分に贈る本」では「正義と微笑」を、「心に残っているフレーズ」では「斜陽」を挙げられていた。太宰 治から受けた影響は大きいのでしょうか?
とても! 思春期から変わらず、ずっと好きなのは漫画の場合は大島弓子さん。小説だと太宰治になります。15歳で芸能の仕事を始めたので、大人の中に1人でポツンとしていました。そこではアーティスト、曲、映画のタイトルとか聞いたことない名前が当たり前のように挙がっていて。知見を広げないと話についていけなかったんです。手始めに文豪の作品に目を通そうと決めて、純文学の棚にアプローチしました。そうすると太宰 治と出合うのは必然で。ユーモアに溢れる表現に圧倒されましたね。私の心の内をまさに彼が言葉にしていたんです。その瞬間、あ、私だけじゃないんだ! って、モヤが晴れました。
『人間失格』の主人公・大庭葉蔵の道化に自分を重ねていた時期もあります。10代の頃から収録現場で隙を見ては読書をしていました。ある時から「この作品が好きなら、きっとこっちもツボだよ」とかって本を渡してくれるようになったんです。1人では辿り着けない小説家と出合い、さらに深みが増しました。行動をしてみると、気に掛けてくれて、育ててくれる人がいるというのを知ったんです。
――小泉さんが本を通じて世界を広げた最初の体験でもあったんですね。「本」を通じて「ホント」の人柄に触れる。ダブル・ミーニングのタイトルが表すように、書面からはなごやかな雰囲気が伝わってきます。
私、むだな話をいっぱい聞こうと思っているんです。そこに辿り着くまでのストーリーって、一本の道をまっすぐ進むのだけが正解でないですからね。本筋からずれたところに、その人となりが滲むような気もしています。なにより、10〜20代で私が人生の先輩から教わったものを今度は若い人に伝えたいんですよ。具体的な作品名を挙げるのではなくて、いろんな世界があることを知ってほしい。学生時代は自分が身を置く環境がすべてで、息苦しさを感じていても、逃れられないと思いがち。でも、そうじゃなくて、その先にはもっといろんな空間があります。あらゆる人と場所とつながると視界も明るくなるから。
2022.12.08(木)
文=松岡真子
写真=平松市聖
ヘアメイク=石田あゆみ
撮影場所=北沢書店