「女性同士が話しているのが好き 自分にしかできない領域かも」

――逆に、加納さんの中で小説とお笑いの違いって何でしょう?

 お笑いってやっぱり短期決戦で、今この瞬間に笑いを作らなあかん。目の前に、「はよ笑わせてくれ」って前のめりに枯渇した状態のお客さんがいて、はい、わかりました、やりますーって4分やったら4分ネタをやって、すぐにはい、○×みたいなジャッジを出される。いくら出だしが悪くても待ってはもらえへん。その点、小説は事前に作った状態のものを出すし、目の前で○×をジャッジされることもない。そもそも枯渇して待たれてもないし(笑)、こっそり書いてみたものを、よかったらまた読んでみてくださいって、そっと出してる感じですね。

――お笑いでは常に攻めのイメージがありますが、小説に関しては謙虚ですね(笑)。

 やっぱり芸人ってうざいやつを許さない世界なんで。キザなこと言ったらバッサリいかれるし、小説書いてる自分に照れもあるしね。だから『これはちゃうか』ってタイトルは、ウケへんかった時にすぐ引っ込められるようにね(笑)。

――お笑いでは笑い飯の影響を公言している加納さんですが、文学で特に影響を受けた人はいますか?

 実家に両親の本がいっぱいあったので、小さい頃から読むものには困らなかったんですけど、さっき話に出た岸本佐知子さんは、エッセイを書き始める前に人に勧められて読んで、大好きになりました。その流れで岸本さんが訳してる海外文学も読んで、影響を受けましたね。

――駅が次々に生えてくる町を舞台にした「ファシマーラの女」とか、まさに岸本翻訳の世界ですよね。「加納さんの小説=関西弁語り」と思っていたので、こんなのも書くんだ! と驚かされました。あと「了見の餅」や「最終日」の、意識をこじらせまくったヒロイン像は、ミランダ・ジュライ(パフォーマンス・アーティストとしての活動を開始。作家。俳優、映画監督とマルチに活躍する)の小説を思い出さずにいられません。

 ミランダ・ジュライ、好きなんですよ。彼女も小説も書けば映画も撮るし、音楽もアートもする。私も芸人やり出した頃からコントと漫才の両輪でやってて、初の単独ライブでは、このネタをおもろくするには映像かなと思って、映像漫才をやったり。おもろいことができるなら、形にこだわらずやってみたいタイプなんで。

――ミランダ・ジュライはフェミニズム文学とも言われていますが、「了見の餅」や「最終日」も嘘っぽくない女同士の関係性を描いたシスターフッド文学でもありますよね。加納さん自身、以前から「女芸人」に対する問題定義を語られてきましたが、小説でもその辺りは自然に出ちゃう?

 フェミニズムを前面に押し出すつもりはないけど、芸人として性別関係なくネタで勝負したいとずっと思ってきたし、それが私なりのフェミニズムであり、シスターフッドなんかなって。シスターフッド文学でもいろいろあるけど、笑いに向き合ったものはあんまりない気もするし、単純に女同士が喋ってるのが好きなんで、自分にしかできない領域として可能性は感じてます。

――今回の小説で初めて、加納愛子とAマッソを知る人も多いかと思います。こんなふうに読まれたいという思いはありますか?

 どうでしょうね。小説ってお笑いに比べると、読んだ日にすぐ、今日めっちゃおもしろかったー、嫌なこと忘れられたーって何かが変わるような即効性はない。でも、読んだことによって基本体温が上がって、今後の日々にじわじわと作用していくものという気がするんです。人間って生きてる限り、仕事なくなったらどうしようとか、親が死んだらどうしようとか、いろんな表面化してない不安が付き纏うけど、そんな中でもいろんなことを肯定して、機嫌よく生きてるやつがええなと思うし、自分もそこを目指してる感じはあるのかな。だからこの本も、読んだ人がうっすら機嫌よく生きるための本になれば、こんなにええことはないなと思いますね。

加納愛子(かのう・あいこ)

1989年、大阪府生まれ。幼馴染の村上愛子とお笑いコンビ「Aマッソ」を結成。ネタ作り担当。webちくまにてエッセイ「何言うてんねん」を連載中。YouTubeチャンネル「Aマッソ公式チャンネル」も人気。

これはちゃうか

定価 1540円(税込)
河出書房新社
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2022.12.02(金)
文=井口啓子
写真=釜谷洋史