佐々木俊尚 1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社、アスキーを経て、フリージャーナリストとして活躍。公式サイトでメールマガジン配信中。著書に『本当に使えるウェブサイトのすごい仕組み』

【KEY WORD:2ちゃんねる個人情報流出事件】

 2013年8月に2ちゃんねるの利用者のメールアドレスと過去の書き込み、クレジットカード番号などが漏洩した事件。ヘビーユーザーが中心に利用している過去の書き込みなどを読めるサービスからデータが流出。誹謗中傷の書き込みをした本人が特定されるなど、波紋を呼んでいる。

“ネット人格”が通用する時代はもう終わりに近づいている

 2ちゃんねるの利用者約三万人の個人情報が流出する事件がありました。他人への中傷や荒らし行為なども暴露され、ネット上で謝罪する人が現れる騒ぎになっています。

 インターネットの匿名はこのようにいつでも暴露される可能性があります。ツイッターでも、アカウントを取得した際に登録したメールアドレスが何かの事故で流出すれば、そこから実名が芋づる式にわかってしまいます。これはつまり「絶対の匿名などあり得ない」という厳然たる事実を多くのネットユーザーに突きつけたわけで、ネットに対する人々の見方を変えるきっかけになるかもしれません。

 これまで「悪口をネットに書くのはやめましょう」という倫理の問題として捉えられていたことが、「悪口を書いていると実名がばれたときに困りますよ」というリスク管理の問題に転換されることになるからです。

 これからの社会では、プライバシーを守ることは難しくなっていきます。オンラインショッピングやSNSなどを使わず、ネットにできるだけ自分を露出させないで生きることはできますが、そうするとネットからの利便性が得られず、逆に損の方が大きくなってしまいます。利便性とリスクのバランスを考えれば、自分の情報を提供して利便性を得た方がお得な場合が多いのです。

 個人情報を積極的に開示する「総透明社会」では、自分の実名をネットで使っている方が新しい仕事や人間関係を紹介してもらう機会が増えるでしょうし、罵声を浴びせている人よりも、穏やかで良識的な意見を述べている人の方が、良い人間関係を作りやすくなってきます。

「誰にでもネガティブな感情があり、それを押し殺して生きていくのは無理だ」という人もいるでしょう。しかしそうやって自分のネガティブな内面を育てるのではなく、そういう感情を持たなくていいような生き方、働き方をする方がずっと得をできるというような方向に今後は進んでいくのではないでしょうか。

2013.10.23(水)

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