バレーボール選手だった江角マキコと“直面した高い壁”
『ショムニ』大ヒットの要因はいくつも挙げられるが、やはり最大の一因は主人公でショムニのリーダー格・坪井千夏を演じた江角さんの存在感に尽きるだろう。
江角さんは’85年に日本たばこ産業女子バレーボールチーム(現・Vリーグ・JTマーヴェラス)に入団し、選手として活躍。’86年、右肩の故障で引退後、ファッションモデルに転向。
’90年代以降は資生堂を筆頭にTV-CMに出演しまくり、当時のCMクィーンのひとりとして君臨する(筆者的には大塚製薬の「ファイブミニ」が印象深い)。
’95年には映画『幻の光』で女優本格デビュー。同作で第19回日本アカデミー賞・新人俳優賞をはじめ5つの賞を獲得し、内外共に高評価を得た。だが、『月の輝く夜だから』(’97年)でフジのドラマに本格主演するが、大ヒットには至らず。なかなか2回目が続かない時代が続く。
それはスポーツ選手やモデル出身の女優が一度はぶつかる“壁”だったのかもしれない。そのクール・ビューティーな佇まいがかえって邪魔をしてか、なかなか役の幅が拡がらなかった。曰く「冷たい印象を受ける」、「笑顔が可愛くない」等々……いわゆる“庶民に愛される役”が回って来ないのだ。
「この子とは長い付き合いになるかもしれない」
取材者の視点から見ていて、当時の江角さんは常に“こういう自分でいたい”という思いを強く抱き、人付き合いにおいても、演じる役柄についてもなかなか折り合いをつけられずにいるように思えた。実際、どんな仕事であれ毎回“これをやったら女優をやめよう”と、内心思って演じていたという。それはこうありたいと思える自分自身に、自分を近づける作業でもあった。
そんな彼女がまさに“こうありたい”と思えた役がこの坪井千夏だった。最初に脚本を読んだときに彼女の中にも千夏というキャラクターに対し、“この子とは長い付き合いになるかもしれない”という予感めいたものが働いたという。
2022.10.28(金)
文=岩佐陽一